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第四章 誠の職場 一
翌日誠は出勤していき、貢はお休みだった。休みの日のブライダル業界は稼ぎ時なので、こうして土曜か日曜かに誠がいないことはままある。
ふと牛乳を飲もうと貢が冷蔵庫に向かうと、キッチンに2つお弁当が置いてあるのを見つけた。
(あ……)
1つは自分のものだとわかったが、もう1つは誠のものだろう。
青い布を今朝取り出し、キッチンでお弁当を包んでいる姿を見ている。
(これ、誠さんのだ。忘れていったんだ)
持つとずっしりと重くてまだ温かい。
もうとっくに出て行った玄関のドアの方を向き、お弁当箱を抱えて徐に歩き出す。
(どうしよう。もう家から出て電車に乗っちゃった時間だよね。……届けた方がいいかな。そういえば以前に名刺をもらった気がする。そう、連絡用にってそういえば机の引き出しにしまいこんでいたっけ)
貢は自室に戻ると机の引き出しをあちこち開けていく。
確か二番目か三番目に……。あった。
そこには住所が書いてある。電車で数駅だったし、良く知られたブライダルホテルだから迷う事はなさそうだ。
でも……と、リビングと玄関を繋ぐ廊下で貢は立ち止まる。
ふと昨日嬉しそうに定食屋のおかずをほうばる誠を思い出した。
(別に届けに行くだけだし、問題ないよね)
貢は上着を着るとお弁当を紙袋の手提げに入れて、家を出た。
冷たい北風が頬に当たる。風が巻き起こるたびに貢の後を枯れ草が舞うようについてくる。
そのホテルは駅から歩いて六、七分くらいのところにある。
サクラの木が植えられている並木道をゆるやかに登った先だ。
ホテルの最上階が教会のようだ。ステンドガラスや赤い屋根の建物がのっかっていて、そのてっぺんには十字架が掲げられていた。
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