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第四章 誠の職場 三

「こ、これっ」  誠の胸に押し付けるように渡すと、貢はそのままエントランスに向かい足早に逃げ帰ろうとした。  しかし人の波を綺麗にさばいて歩く誠の方が、まごまごして先に進めない貢よりも当然動くのが早い。 「待ってくれ!」  すぐに貢は追いつかれ、腕をつかまれると誠に引き寄せられた。 「これ、今朝忘れたお弁当だな。ここまでわざわざ届けてくれたのか。ありがとう。助かったよ!」  笑顔の誠に貢もこくっと頷くが、すぐに彼と自分の距離が異常に近いことを知る。  しかも腕をつかまれている。 (お、誠さんがぼ、僕の腕を……ああ……)  貢の視界がすぐに真っ白になっていく。 「あっ、うわっ! 貢、大丈夫か、貢!」

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