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第四章 誠の職場 六

 食堂は思ったよりも広く北欧風のカフェのようだ。外にも白く丸いテーブルと椅子が並んでいた。  シェフ、ホテルのコンジェルジュ、誠のようなウェイターなどの従業員たちでそれなりに賑わっている。その開放感から、お弁当を持ち込んで食べている従業員もいた。ここは自由に持ち込んでいいところらしい。  店内には観葉植物が置かれていて、忙しい中みなひと時の休憩でくつろいでいる。 「本当はもっと従業員がいるのよ、でも私たち交代制だから今はこれくらいね」  大貫が目を細めて従業員たちを眺めた。  貢は誠に勧められるままに、オムライスと温野菜のセットを食べることにした。  社員専用の食堂とはいえ、厨房にいるのはシェフだ。間違いなく美味しいに違いない。 「ごめんなさい、僕、折角誠さんが作ってくれたお弁当持ってくるの忘れちゃって」 「いやいや、仕方ないさ」    同席する中に医務室にもきていた一香という女性が、一番よくおしゃべりをする大貫の隣に座っていた。  誠と貢は隣同士の席をすすめられたものの、1つだけ椅子を隔てたところに座っている。  貢の目の前にいる一香は誠が話し出すと顔を上げてそちらの方を丸い瞳を潤ませながら見つめていた。  その様子に貢はなんとなくピンときた。  たぶんこの女性は誠に好意を寄せているかもしれないと。  静かでありながら色白で清楚なイメージがある。制服の着こなしもさりげなく椅子の座り方も品がある。  そう彼女は亡くなった誠の妻、加奈子に少し印象が似ていた。  そう思うと貢の動悸が激しくなり、胸が苦しくなった。  せっかくのオムライスも三分の一ほど残してしまう。   「もったいねぇな。食えねぇんだったら、俺が……」  小杉がぐぉんと皿に大きな手を出そうとして隣の大貫に軽く弾かれた。 「杉ちゃん、意地汚いわね止めなさいっ!」  大きな体をした小杉が大貫の叱咤に急にしおらしくなる。 「いいですよ、食べても」  貢はお皿を小杉の方に向けた。それを小杉が嬉しそうに受け取ろうと貢の手に触れた。 「だーめだーめ貢ちゃん、甘やかしたらだーめ。こいつ際限なく膨らんでくから」  その小杉の手を払いのけ、貢の手に触れるとそっと皿を下げさせた。 「そんな大貫くん……」 「甘えた声出してもだーめ」  この二人の掛け合いにみんな笑った。 「そんなに食べたければあたしが作ってあげるから」 「ほんと?」  妙な空気である。

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