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第四章 誠の職場 七

 だがその場にいるみんなはそんな状況には慣れている感じだった。  その間も一香は誠と視線が合うと二人は微笑み合っているように見えて、貢は複雑な気持になってしまう。  なんだか自分だけがとり残されたような面白くない気分だ。   「そうだ貢ちゃん、折角だからこの後、誠ちゃんのお仕事見学する?」  片目をつむりながら大貫が思いもよらないことを提案する。  貢が目を大きく見開いた。 「え、でも僕なんかが」  遠慮がちに言う貢を大貫の細い手が制した。 「何を言ってるのよ、困る事なんてないわよ、自分を養ってくれてる男の仕事をちゃんと見るべきなのよ、そしたら貧血で倒れてる場合じゃないって思うに違いないわ」  どうやら先ほど倒れたのが貧血のせいであると勘違いしているようだ。 「いえ、僕のは貧血じゃないんです。それにもう元気になりましたから」 「あら? じゃ尚更、見学しなきゃね」 「良いわね、日向主任」  大貫が語気を強め軽く視線を送るが、誠はいつも引っ込み思案な貢にはいい経験になると快諾した。 「了解です、大貫支配人」  貢は改めて誠と大貫を見た。この二人はホテルでも偉い人たちのようだ。 「貢、これ制服だよ。見学でも一応同じホールにいるわけだから、お前のサイズはこれでいいな」  とまどう貢に誠はビニール袋に入ったクリーニングしたての制服を渡しながら目を細くした。 「大丈夫よバイト体験だと思えばね、ここはね、従業員であろうが見学であろうが全員制服を着てホールに出るのよ」 「えっ……あっ」  オロオロしながらも制服を借りてしまう。  制服は想像していたよりぴったりだった。胸元に見学と書かれたプレートを付けられる。    ホールキッチンにつくと誠が入っただけで周りの人が反応する。 「主任、午後の仕事の予定なんですが」

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