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第四章 誠の職場 九

「お疲れさま」  二時間ほどして一香は貢を控え室に案内した。  ドアを開けるとあちらこちらに花瓶があり、ポインセチアやアマリリスの花が飾られていて、控え室にしては華やかなイメージだった。  貢はそれらを綺麗だとうっとりと眺めた。花の傍に行き、匂いをかいだ。  一香は何か感じたらしく微笑む。 「貢くんも花好きなの?」 「えっ、あ。はい。その、綺麗だなと思って。男なのに変ですよね」 「ううん、そんなこと無いわ。男の人だって花が好きな人は沢山いるわ。知ってる? ポインセチアの花言葉は花の色によっても違うのよね。赤は祝福しますって意味。聖なる夜という意味もあるから、クリスマスによく使われるのよね。白い花はあなたの幸せを祈りますっていう意味。だから贈り物によく使われるのよ。アマリリスは誇りとか輝く美しさとかね。これらも結婚式場によく使われるわ」 「……詳しいんですね」 「ううん、ただ好きなだけなの。花言葉ってなんかいつも愛情にちなんだ言葉が多いでしょ? だから無言のメッセージとして奥ゆかしい人は花だけを好きな相手に贈るものなのよ」 「……無言のメッセージ……」  貢が俯きながらポケットにしのばせていたしおりをぎゅっとにぎりしめた。  少しの沈黙も遮るように一香は急須に茶葉とお湯を入れながら言葉を続ける。 「あ、見学とバイト体験どうだった?」 「はい。働くのって大変だと思いました」 「そうね。確かに大変ね。でも信じてる人が上司にいると頑張れる。そんな気がするわ」  そういいながらお茶と包んである小さなお好みおせんべいを差し出してくれた。 (信じてる上司?) 「すき……なんですか?」  椅子に腰掛けていた貢は上目遣いに彼女を見ると、彼女は口に手を当ててわかりやすく顔を赤くした。 「そ、そんなことないわよ。上司として信頼はしているけどっでもっ」 「やっぱり……」 「貢くん?」

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