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第四章 誠の職場 十三
季節は秋の色から少しづつ真冬に向かっている。
ホテルの従業員出口から二人が出てきたのはもう日も落ちかけていた頃だった。
やはり誠の頭の中には貢が苦しんでいることの1つであるストーカーの事が離れられない。自分から話かけようかと思案していた誠に貢が先に口を開いた。
「叔父さんは何故この仕事を選んだの?」
予想もしていなかった質問を投げかけられ、誠はしばし考えてから答えた。
「俺は……そうだなぁ。誰かを幸せにしたくて。いいや、誰かの幸せな顔を見たくて、この仕事を選んだんだ」
「そっか……」
「俺は誰かの幸せな顔を見るのがなによりも嬉しいんだ」
そういうと少しだけ顔をくしゃりとさせて笑った。
「もちろんお前の事もだぞ、結局あいつは幸せにできなかったから、お前はちゃんと成長して幸せになる姿を俺に見せてくれ。それが俺の今の望みだ」
そう言われて思わず貢は胸が一杯になる。
それがたとえ自分が望むような幸せではなくても、誠の人生にひとかけらでも自分を思ってくれた時期があるだけで心から嬉しかった。
「だからそのっ、うーん」
誠は頭をかいた。落ち着きがなくなり、意味もなく耳に手を置いたり、頬をかいたりしている。
「お前さ、うん、そうだ、やっぱり聞こう。俺に何か隠し事してないか?」
貢の気持ちがざわめく。
「そのっ、まだまだ俺にそのなんていうか信頼関係がないとしたらそれは俺の責任だ。これから先お前に信頼されるような人間になりたい。で、お前が俺を信頼できるようになったらでいいんだ」
誠は貢をちらっとみてまた視線をそらした。
「今は言えなくていいし、無理にいう事はない。でも、そのっ、いつかいつかお前が何か抱えているその、悩み事とかその、言えないこととかを一緒に解決したい。どんなことでも」
「どんなことでも?」
「ああ、どんなことでも!」
きっぱりと言い張る誠に貢は戸惑う。
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