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第四章 誠の職場 十四

「叔父さん」 「ん?」 「そうは言っても、解決できないことは世の中にはあるんだよ」 「そんなことないさ。その、すべて思ったとおりにはならないにしても、なにかしらの道がある。それにはやっぱり本音を……」 「本当の事をいう事がすべての幸せに繋がるとは限らないんだよ」  妙にこのことに食って掛かる貢を誠は不思議に思った。   「そんなことないさ、人間わかりあうためには本音で話し合わなきゃいけない時もある」 「そんなのないよ。本音を言いたくない人間だっているんだ。それを言ったら駄目になる。そんなこともある」 「それはそうだが。でも。何も言わなければ何も始まらないだろ」 「僕は始めたいなんて」 「貢、……す、ストーカーのことか?」  誠の言葉で貢の動きが止まった。 「ど、どうしてそれを……?」 「ごめん、誰かとは言えないけどっ、でも、お前の苦しみの中にそのことも入っているって最近知った」  貢は俯いたまま何も言わない。 「辛かっただろうな。俺にはその気持を全部は理解できないかもしれない。俺に対しても嫌悪感を感じるくらい辛いことだったのだろう?」 「そうじゃないよ……」 「貢、男が気持悪くて、俺に触れるのも苦手になるくらいそのっ」 「違う!」  初めて怒りを露にする貢に誠は目を見開いた。 「悪かった。今のは俺が先走りすぎた」 「……そうじゃないよ」 「貢」 「そうじゃない……本当に何もわからないんだね?」 「……え、あ……」 「僕、先に帰る」  緩やかなくだり道を駅に向かって歩く小さな背中をその時の誠は引き止めることができなかった。 (どういうことなんだ? 俺は何もわかってないのか? 何も……何も……。どういうことなのか、お前から言ってくれなきゃ……俺は何もわからない……)

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