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第五章 過去の苦味 五

「そんなつんけんしなくてもいいじゃねぇかよ」 「嫌だお前なんか僕はもう大き」  言いかけた頬を強い衝撃で我孫子の大きな手が平手打ちする。  貢はそのまま抵抗できず、襟首をつかまれた。 「お前は終わった事かもしれなくてもな、俺は終わってねぇんだよ。なに勝手に一方的に終わらせてるんだよ。それに何もまだ始まってないだろ?」  にやりと笑う笑顔にぞくっと背筋が震えた。 「嫌だ、助けてっ誠さん!」  叫んだ拍子に我孫子が腕を緩めた。  同時にふぅんとどこか合点が行ったような笑みを浮かべる。 「誠? そいつがお前が昔片想いしてた奴なのか? 俺に話してたじゃんかよ、で? 奴とは寝たのか?」 「叔父さんとはそんな関係じゃない」 「ふぅん。お前の叔父さんなのか? その誠さんって奴は」  思わず口にしてしまったことを貢は後悔した。  それと同時に体に力が入らない。息が上手く吸えない。  過呼吸気味になった貢はそのままその場にへたり込んだ。

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