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第六章 誠の心 五
香澄先生はカルテを遡るようにめくっていく。
「日向さんはどうなんですか? 確か……だいぶ以前こちらにご相談にこられた時にその甥っ子さんに対して何か不思議な気持になったといっていらっしゃいましたよね?」
「ええ、まぁ……そんなこともあったような気がします」
「その甥っ子さんが可愛すぎて、その普通の感情と違う感情が自分の中にあるんじゃないかとも」
「ええ、はい。あの時は随分悩みました。でもそれは妻に似ていてあまりにも彼が女の子っぽかったからというところに落ち着きましたけど」
「今はどう思っていますか? あれから甥っ子さんも可愛いというより男っぽくなってきたでしょう」
「ええ、そうなんです。そうなんですけど。彼にはなんだかつい翻弄されてしまって。男っぽくなってはきたんですけど、なんていうか……やっぱりあの時と変わらずに不思議な気持ちに……」
そう言いかけてはっとなり、誠はその場に立ち上がった。
(ぼ、僕はなんてことを!)
「確かに貢から拒絶されると必要以上にショックは受けます。受けますけど、でもっ違います。そうじゃないんです!」
立ち上がった彼の顔を香澄先生の視線が追った。
「なぜ違うと言い切れるんですか?」
「えっ、それはそのっ」
言いながらも喉がカラカラになってくる。
誠は一度椅子に座り何か考え事をしていると思うと、また再び立ち上がった。
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