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第六章 誠の心 九
夜のホテルは昼間の宴会の賑やかさとは違い、少し落ち着いたムードだった。結婚式の二次会の会場として立食式のお祝い会場としてホテルの宴会場を使うカップルもいたが、昼間ほど数は多くない。
遅番だった小杉たちはその時間も働いていた。
一時の大きな波が引くと彼らはまた控え室へ向かう。ほかの従業員たちも歓談してひとやすみしていた。
その中に見慣れた学生服姿を見つける。
「あら、貢ちゃん、どうしたの?」
控え室の奥にある少し高くなった三畳くらいの畳の部屋に貢は通されていて、お茶がテーブルの傍に置かれていた。
狭い場所に貢と小杉と大貫が向き合っている。
小杉はこの場所が得意ではないようだ。体が半分畳部屋からはみ出ていていごこちが悪そうだ。そして手持ち無沙汰なのかお皿に入れられたおせんべいをさきほどからつまんではボリボリと音を立てて食べていた。
大貫は何も言わずに先ほどから貢に真っ直ぐ無言で向き合っている。
小杉がその静けさに耐え切れなくなったのか、おせんべいの袋を貢に差し出すが、貢は首を横に振った。そして大貫と小杉の顔を交互に見てまた俯いてしまった。
「……悩みがあるのね?」
大貫の言葉に貢は黙って頷いた。
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