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第六章 誠の心 十

「誠ちゃんのことでしょ?」  大貫の言葉に貢は微かに反応した。 「そっか……誠ちゃんのこと……?」  ここまで来てしまい、さらに目の前の二人が付き合っている事実を知り、喉元まで出掛かっていた不安と悩みはもうせき止められないところまできていた。 「彼には打ち明けないの?」 「……きっと否定される」 「何故?」 「彼は僕ではなく、僕に似た女性と結婚したんだ。ようするにそういう人ではなかった」  大貫は渋い顔をしては頭を抱えるようにしたり、頷いたりした。 「なるほどそれはきついわ。で、? あなたはこれから誠ちゃんとどうなりたいの?」 「わからない」 「駄目ね。それじゃ、後にも先にも行けないじゃない? もう、いっそのこと誠ちゃんに本当の事を言うしかないわ」 「でも拒絶されたら……辛い」  俯く貢に楽天的な言葉など向けられない。 「まぁね。でもそれで誠ちゃんに受け入れられなかったとして。その時は辛いかもしれないけど、きっと気持は先にいけると思うわ」「でも、叔父さんは鈍いから」  その言葉に大貫は大きくうなずく。 「そうそう、そうなのよねぇ、あいつは。自分の気持でさえどこまでわかっているのやら」 「僕は例え受け入れられなくても、叔父さんに幸せになって欲しい、叔母さんを失ってからなおさらそう思うようになった」

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