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第七章 すれ違う心 二
「駄目よ」
加奈子は唇をぐっとかみ締めた。
「彼は男の子よ、女の子みたいに見えるけれどそれにまだ子どもでしょ」
言われて初めて俺も自分の心に間違いが起きてる事に気づいた。
妻はにっこり微笑んで俺と腕を組んだ。
俺はそれは嫌じゃなかった。妻はとても貢に似ていたから。
俺は罪の意識を感じて貢から離れるようになった。
彼はそんな俺をどう思っただろうか。
「あ、調味料が足りない」
夕方、今日は早番だった誠は家に戻っていた。
そしてこれから夕飯の煮物の支度をしようとして醤油を切らしていた事を思い出す。
エプロンを外し、上着を羽織って近くのコンビニまで急ぐ、ついでにお茶と雑誌を買った。
マンションの近くまで戻ると、見慣れない一台のバイクが止めてあり、エントランスにライダースーツの男が立っていた。
いかにもチャラそうな色黒の男で妙ににやけた顔をしてこちらに視線を送る。
コーヒーの缶を片手に立っていた。
「お前日向誠だろ?」
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