79 / 137
第七章 すれ違う心 八
誠は貢を探しに表に出た。辺りを見回しても知っている小さな背中はどこにもいない。
走りながら声をあげた。
「貢、どこに行ったんだ!」
あちらこちら探し回っているうちに誠の頭の中で過去の記憶が蘇る。
「加奈子、大丈夫か加奈子!」
病室で誠が心配そうに加奈子の顔を覗き込むと、加奈子は薄く口を開き少しだけ微笑んだ。
「私はもう十分幸せだったわ。それよりも誠さん、私の兄も子供の時からあんまり丈夫じゃないの。だからもし兄に何かあるようだったら、彼の息子……彼を助けてあげて」
「貢のことか?」
加奈子はぎゅっと布団の端をつかむと小さくうなずく。
「私は昔とんでもないことをしてしまったの、彼にね」
そして天井を見上げてふふっと少し笑った。
「でもねあなたと過ごせたことに後悔はしてないの。幸せだったもの。でも彼に……本当にごめんなさい」
加奈子はそういい残すと、数日後、天寿を全うしたかのように安らかな顔で天に召されていった。
ともだちにシェアしよう!