80 / 137

第七章 すれ違う心 九

 早朝、貢は始発に近い時間帯の電車に乗り込むと持ってきた荷物の中を改めてみる。  父親が生前くれたわずかなお金が入った貯金通帳と財布、身の回りのものを少しカバンにつめて持ってきたが、足りないものも色々あった。   (とにかくアルバイト先を探さなきゃ)  そう思いながら意気込んだものの、今までアルバイトなどをしたことがない貢はどうしたらいいか手探りだった。書店に行って雑誌を広げてみるもののなかなかいい情報がない。  スーパーなどにある無料のアルバイト雑誌を見つけて気になるところに連絡をしたものの、自分が未成年であると断られる場合が多かった。  またバイトがOKでもとりあえず住まいと保護者などのサインや了承がないとその先へ行けない。    結局どこにも行き場がなく、夜は24時間営業のファミレスで過ごすことになった。  その時になって初めて自分がどれだけ今まで親や叔父さんに守られていたかを悟る。  それでもすごすごと誠のもとに帰るわけにもいかず、どうしたらいいか悩んだ。  逃げだといわれたらそれまでかもしれない。  間違いなく今の自分は逃げている。  自分の気持を汲み取ろうとして言った誠の言葉に戸惑い、それと真正面から向き合える自信がなく、そんなのは現実じゃないと否定し、逃げた。  なんて情けない臆病者なのだろう。  発作が起きる事そのものが、現実と向き合ってない魂に体が攻め立てているような気がして、ヘタレすぎる自分が嫌になった。

ともだちにシェアしよう!