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第八章 パンジーと誠 八
自室の布団の中で貢は眠れなくて何度も寝返りをうった。一香の話がどうしても頭から離れられない。
(叔父さんは確かにいつも僕に優しい視線を送ってくれていた。でも、それは僕が彼の甥だから。でも……)
「貢……よかった」
翌朝、半分寝言のように呟くと、誠は辺りの光の眩しさにうっすらと目を開いた。
ふと辺りの状況と今見ていた夢のギャップに飛び起きる。
まさか夕べのことはすべて夢だったのかもしれないと慌てて飛び起き、周囲をキョロキョロと見渡した。
「貢っ!」
いてもたってもいられず、貢の部屋に行くと、貢が寝巻きから制服に着替えて出てくるところだった。
「よ、かった……」
「叔父さん?」
「お、おはよう」
誠が安堵すると少しだけ微笑んだ貢が「おはようございます」とコクンと小さく挨拶をした。
二人で朝食を食べ終え、誠がコーヒーを飲みながらくつろいでいると、ふと貢が何かを決心したように顔を上げた。
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「ん、ああ」
「叔父さんはそのっ、加奈子さんと結婚する前に、だ、誰か好きだった人がいたの?」
誠は目を大きく開き戸惑う。その様子に慌てて貢は背中を向けた。
「僕はその人が誰だかわかりません。どんな人だったのかも」
言いながら緊張で体中汗ばんでくる。
誠に背中を向けているから恐らく表情までは見えないというか見せたくない。
「もし僕がいることで邪魔してしまっているのなら、僕は改めて家を出ます。叔父さんの迷惑になりたくないしっ」
言いかけた言葉は誠のいつになく穏やかな口調がかぶさることで止った。
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