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第八章 パンジーと誠 十
四時過ぎに近所のスーパーで二人はゆっくりと買い物をした。
まだ二人の時間は始まったばかりだ。
「貢はどんな果物が好きなんだ」
「ぼ、僕はぶどうとか好きです、その種無しのとか丸ごとたべられるのとか」
「そうか、俺も種無しは好きだ。でもつい食べ過ぎちゃうよな、これは」
たわいもない会話をしながら、カゴに一房ブドウを入れる。
何気ない会話でも二人にはそれがとても新鮮に感じた。
日常の些細なことでも二人にとってはデートに匹敵するくらいどこか浮き足立った感じでもある。
同じオレンジジュースを手に取ろうとして思わず互いにひっこめた。
「これ好きなのか?」
「はいっ、大好きですっ」
自分の好きなジュースやお菓子は素直に大好きと言えるのに、一番肝心な大好きが言えないなんてと、次々に好きなものがカゴに入る様子を複雑な気持で貢は見つめていた。
一通り必要なものを買い込み、二人で荷物を分けて家路につく。
「今日はオムライスにしよう」
「はいっ、ぼ、僕手伝いますっ」
「ほんとうか? それは嬉しい」
そうこうしているうちに二人の住むマンションが見えてきた。
(そうだ。家に着いて落ち着いたらちゃんと一番大事な好きの話をしなきゃ……。それで拒絶されてもいいじゃないか。それが僕のすべてなのだから)
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