108 / 137
第八章 パンジーと誠 十七
「ちっ、くっそ」
我孫子は舌打ちをすると、拳を引っ込め、そのまま後ずさりする。
警備員が捕まえようとする前に我孫子は今乗ってきたエレベーターに乗り、下の階へ降りていった。
「こらっ、待てっ」
警備員は再び階下へ降りていく。
「叔父さん、叔父さん!」
泣きながら貢は誠にすがりついた。
「貢……大丈夫だったか?」
目に涙を一杯に溜めながら貢はコクコクとうなずく。
「俺がいつでもお前を守ってやるから……」
「叔父さんっ……」
貢は誠にすがって泣いた。いままで抑えていた気持ちが一気に溢れ出るように。
(叔父さんの温かな体、匂い、僕がずっとずっと求めてやまなかったもの……)
「貢……お前……発作、大丈夫なのか?」
はっと気づくと自分が誠の体に覆いかぶさっていることに気づき、貢は真っ赤になった。
けれど、確かに発作は起きない。
「ぼ、僕夢中になってたから、それどころじゃなかった」
貢の顔を見て誠は傷だらけの顔で笑った。
我孫子はバイクを残したままその夜は姿をくらました。
誠と貢はホテルの医務室に連れて行かれ誠が頬に手当てを受けていると、大貫が慌てるように医務室に入ってきた。
「誠ちゃん!」
「あ、大貫支配人、ども」
「ども、じゃないわよ、ちょっとっ、大丈夫だったの?」
「大丈夫だ、これくらいの傷」
「貢ちゃんは?」
「大丈夫です……。叔父さんのおかげで僕は何も……」
大貫がふと見ると、貢はずっと誠の肩に震える手を置いていた。
それを見て、彼はふふっと微笑む。
「大丈夫か?!」
後から駆けつけてきた小杉をはいはいと背中を向けさせると「邪魔者は退散~」と退出していった。
ともだちにシェアしよう!