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最終章 君の想いをきかせて 一

 翌日誠は貢をある場所に連れて行った。  駅についた時から貢にはどこに向かうのか分かっていた。 「なぁ、覚えてるよなここ」 「……はい」  目の前には懐かしい風景が広がっている。  遠くに観覧車が見えて、目の前の花壇にはパンジーの花があの頃と変わらず咲き乱れていた。 「ここで二人でよく遊んだ事覚えているよな?」  貢はうなづく。 「あの時に俺が感じた事が最初なんだったのか、俺はずっと悩んでしまっていた。けれど、自分の気持ちと向き合わずに俺は逃げてしまっていたと思う……。俺は男が好きなのかって悩んだこともあったが、他の男を何人見ても別にこの感情は浮かばなかった。そう、これはお前にだけ感じる感情だったんだ。俺は……ずっとお前の事が好きだった」  まだ昨日怪我した時の絆創膏が取れない誠ではあったが、真剣な眼差しを向けられて貢の瞳が少し潤んだ。 「これは気を使って言うんじゃない。間違いなくあの時俺はお前を意識していた。それは男とか女とか関係なく、お前だから好きだった。でもそれを認めるのがどこか怖くて俺は一度逃げてしまった。今でもそれは後悔している」 「叔父さん……」 「でも、加奈子のことがあったから、余計俺は今度こそ逃げないで真っ直ぐ自分の気持と向き合った。結婚式会場でも色々な人に会った。大貫たちのような人もいる。それらがあったから、だからこそ今はっきりと思えるんだ。だから、お前も過去に何があったとしても、そんなものはもう忘れ欲しい。辛いならそれを俺が忘れさせてやるから……」  誠は真っ直ぐ貢を見つめた。 「これが俺の気持だ。だから、今度はお前の気持を聞かせて欲しい、お前は俺をどう思っている?」  こんな胸が張り裂けそうになるほど苦しくて、でも幸せな瞬間が自分に訪れるなんて。と貢は思った。  体が熱い……いままでずっと誠の事は大好きで大好きで仕方なかった。でも封印していた気持でもある。  それを表にしかも本人の前でさらけ出す事は貢にとっては高い崖から滝つぼへ身を投じるほどの勇気だった。  心臓が破裂しそうに波打っている。  一言好きでした。僕も大好きでしたって言わなきゃ……。そう思うほど唇がうまく動いてくれない。  俯きながら貢はそっとポケットに手を入れた。その時はっとした。  そしてそっとそれを取り出すと、誠にそれを向け差しだした。

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