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最終章 君の想いをきかせて 十六

 その日は朝からとっても空が綺麗だった。  あの晩以来貢は前よりずっと誠が自分の心に寄り添ってくれている気がして嬉しかった。時折自分のことを見ている視線を感じる、そして何か思いにふけっているようだった。  寝る前は必ず額にやさしくキスをしてくれる。  今誠ができる精一杯の気持だと思うとそれだけで夜は穏やかに眠れる。  あと少し心の整理ができてないのが申し訳ない。  時折自分のこうしたかたくなな性格が嫌になるけれど、誠はそれさえも丸ごと受け止めてくれた。  今日は妙に晴れやかで日差しが温かな日だ。  今朝誠が早番で家を先に出たので、一緒に早めに起きた貢は彼と共に朝ごはんを食べ、ゆっくりと学校に行く支度をした。  ああ、この間は最後までじゃなかったけど、誠さんとあんなことまで。思い出しても赤面してしまう。  カレンダーを見るともう12月になっていた。  外に出ると風も穏やかで、並木道も気持よかった。 「わぁ……空が高い……」  思わず目を細めて見上げてしまった。 (こんなに空って広かったっけ。まるで手が届きそうだ)  とても心地よい。自分の人生の幸先のよさを感じさせる。   「貢……」  ふと声のする方に視線を戻すと、こんな気持のいい天気には似つかわしくない奴が無精ひげを生やし、髪を乱したまま立っていた。  まるで彼だけがこの世界とは違うところにいるように浮いて見える。 「我孫子……お前……どこに逃げてたんだ」  貢は少し胸の奥がちくりとする。 「ちょっとな、野暮用だ」 (誠さん、僕はもう逃げない。きちんと彼とお別れしなくては)  貢は決意を新たにした。 「俺はずっとお前を待っていた。それなのに、お前はあいつを選んだ」  大声で罵倒されるのではないかと身構えたが、あの時の挑発的な勢いはなく、我孫子はいままでらしくない様子で声も少し枯れ、勢いもしぼんでいた。  その姿に貢は流石に申し訳なさを感じた。

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