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最終章 君の想いをきかせて 十八

 貢は我孫子に深々と頭を下げた。  我孫子は木の陰でふっと軽く微笑んだ。 「わかったよ……」  こちらに歩いてきた我孫子はすっと手を差し出した。 「貢、もうこれでお別れだ」  我孫子が差し出した手を見て貢は手を伸ばした。 「本当に、ごめん」  思わず涙が溢れ出してくる。 「なんだよ、泣くなよ」 「だって、僕は取り返しのつかないことを、あなたにしてしまったのかもと思うと」 「まぁ、人間なんて完璧な奴はいないもんだ」  互いに握手すると我孫子はぐいっと貢を抱き寄せた。 「じゃあな、貢……さよならだ」  その瞬間ドンと腹を叩かれた気がした。  耳元で微笑んだ我孫子はその場を離れて歩き出す。  貢は我孫子とすれ違いざま何かが変だと感じた。  去り行く我孫子の手を見ると彼はナイフをもっていた。  そのナイフには血がついていた。  我孫子が微笑みながら立っていた。 「俺って本当に嫌なやつだろ? これで本当にお別れだ。サヨウナラ貢……」 「あ……」  今まであんなに澄んだ青い空だったのに、周りがかすんで見えてくる。  思わずお腹に手を当てると、なにかべったりとしたものが手についた。ふと見ると真っ赤になっている。  何が起きたのかさっぱりわからず。混乱した。 「はっ……」  そのまま呼吸が次第に乱れてくる。血を見てショックを受けたのも合わさり、世界が暗転するように闇に落ちていく。  貢は冷たいコンクリートの上に倒れこんだ。 「ま、こと……さ……」  まるで色々な出来事が走馬灯のように駆け巡る。

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