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第一章 高貴な遺伝子 二
自分の両親はアルファ種の男とベータ種の男だった。
この世界には様々な人種が存在する。男と女という性別があり、昔は女という生き物だけが子どもを産んでいた。
それらは今も続いているが、現在は子を産むものが女性に限ったことではなくなっている。
大きく分けると三種の人種が産まれた。
遺伝子的に最も優れた能力を持つアルファ種。だが繁殖能力はない。
普通の能力を持つベータ種。彼らは繁殖能力があるが、昔からいる旧人類のそれと似た存在だ。
ベータのユキトが自分の母体ではあったが、彼はアルファの父、ミチルのようなやや上級階級の人間だったから、自分も結婚するならベータの男か女がいいと思っている。
親は常に俺を自慢の息子として思ってくれている。俺も子供の頃から自分が人類の種族の最高位であるアルファであることを誇りに思っている。
ただ、アルファである俺が少しだけ病弱であることだけを悔いていた。
過去と違い今は医療も発達していて旧時代に解決できなかった癌や症例の少ない難病もかなり治せる時代にはなってきている。
だが、まだすべてではないようだ。
ふと琉が眺めている画面が視界に入り、俺はもやもやと重苦しい気持ちになる。
そこにはデータを集めるための日程表が書かれてあり、俺の気に入らない地名が眼に入ったからだ。
「お前、またノースエリアに?」
ノースエリアにある中央都市大学付属高校は、俺が苦手とするオメガの人間が多く集まるところだ。
そう、三つ目の種。人類の滅亡を防ぐべく繁殖に特化したオメガ種。
何もオメガだからと言ってそいつら全てを否定するわけじゃない。
元の能力が高くなくても、中には必死に勉強をして、それなりの地位に上り詰めた奴がいることも確かだ。
だが……。
琉が大学の医学部を目指していく上で、ヒトゲノムの調査をするために様々な人種のサンプルが欲しいことはわかっている。
大学に入れればそれらはすぐに手に入るのだが、彼は単にデータを見るだけでは満ち足りないようだ。
琉は実験結果だけでなく、自ら赴き、多くの人種と触れ合うことにどこか重きを置いている。それが俺にはあまりいい気がしない。
もちろん琉は、嫌がる俺を苦手なオメガたちのいる研究室へ行かせるようなことはしないし、研究結果としてやはりアルファ種がいかに優秀であるかを証明してくれることもあるから、あれこれと俺が口を出すことではないと頭ではわかっている。
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