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第一章 高貴な遺伝子 三

 琉の誘いがきっかけだったが、中央都市大学を訪れて印象に残ったのは、オメガの学生たちの俺たちを見る露骨に怯えたような視線、卑屈な態度だった。  けれど、中には鋭い目つきの男がいて、思わずそいつに睨まれた。  そいつには俺が肩にしているアルファのバッヂが見えたはずだ。  俺が相手にしないようにそいつを無視して通り過ぎようとすると、そいつはすれ違いざま呟いた。 「今だけそうやって上から目線で澄ましてろよ。時代は刻一刻と変わっていく。いつまでもお前らの時代ではない」  俺は奴の挑発めいた言葉に少しだけ胸がざわめいたが、もちろん表にその感情を見せることはない。  彼の肩にあるバッチを見ると彼はどうやらベータのようだ。 「ふ、最近のなんでも平等主義ってやつか……。けれどどんなにがんばったところで、お前らは所詮は下級であり、弱い生き物だ。力にも限界がある。そして何よりも本来の目的である繁殖を放棄して、表向きだけでもアルファの つ も り になりたがる奴らがいかに多いか」 「なんだと?」 「いいか。お前らベータにもはっきり言ってやる。身分はあった方がいい。それぞれの種族にはそれに見合った能力がある。それなのに最近のお前たちは少し調子に乗っているようだな」  俺の言葉に他のベータたちが反応した。 「どんなに頑張っても、どんなにいい薬で抑え込んでも、アルファという最高位の血より上に立つことはできない。それだけは覚えておけ。アルファの活躍があるからこそ、お前たちが今日まで生きてこれた」 「なんだと!」  男が俺に掴みかかろうとして、他の奴がそれを抑えた。 「よせ、やめろ」 「……くっ」  そいつはどうやらオメガのようだ。 「今の政権が少しだけ俺たちオメガにチャンスを与えてくれている。でもそれは俺たちがちゃんとしているのが前提なんだぞ。こんなところでアルファに逆らっても俺たち自身を貶めるだけだ。そうだろ?」  男を庇うようにして他の仲間も彼をなだめた。  オメガの奴らの中には、俺を睨みつけ肩を震わせ涙目になりながらぐっとこらえる者もいた。  俺は何も間違ったことを言ってはいない。奴らもそれが正論だと思っているからぐうの音も出ずにいる。  全ての種が平等だと市民運動の平和団体が叫んでみたところで、やはりアルファの血はどの種よりも優れている。その証拠にアルファ以外の人種は誰もが尊敬と畏怖の混ざった眼差しで俺たちを見ている。  憧れ、羨むような視線が俺はたまらなく嬉しく誉れ高かった。  それと同時にオメガのやつらが酷く惨めに感じた。  ふと、廊下の片隅でそれを見ていた男の視線が視界の端に入る。  見たことがない奴だったが、男は黒髪のザンギリ頭でお世辞にも身分がいいようには見えなかった。  彼が去っていく時に彼の肩にはベータのバッジがついていたのを俺は見逃さなかった。

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