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第一章 高貴な遺伝子 八

「オメガ相手にか? 俺には理解できないな。互いに想い合ってっていうのもどこまで本当なんだか」 「本当も何も相手はいい奴だったよ」   思わず俺は足を止めてしまった。 「お前会ったことあるのか?」   琉はカミーユとの相手をもうすでに紹介されて、いまさら何も聞くことがなかったから黙っていたのか。 「ああ、ノースエリアの中央都市大学の付属高校で知り合った。物腰の柔らかで気さくでいい奴だったよ」 「中央都市大付属ね……お前やカミーユの価値観だからあれこれ言うつもりはないし、好きにすればいいと思う。でも俺は相手がオメガなんて絶対に嫌だね」 「何故……?」 「だってそうだろ? オメガのやつらの発情期の罠にかかった可能性もあるじゃないか。そんなの本当に精神的な結びつきかどうかなんてわからないだろ? 悪いけど俺はそういうのは好きじゃない。動物的すぎてさ、俺にはなんだか下品な感じがする」 「アヤト!」  少し俺をたしなめるように琉は少しだけ眉根を寄せて、何か俺に言いたそうな顔をした。そして俺の腕をぎゅっと握ってきた。 「痛ってえ! なんだよこの馬鹿力!」 「っ……。ごめん、強く握りすぎたか? 悪かった」  俺はぶっきらぼうに腕を払いのける。  こいつ時々凄い力出すことがある。自分の主張が強い時に時々あるんだが、以前にも俺と言い合いになって校舎の壁を壁を叩いた拍子に壊したことがある。  物腰が柔らかいだけに周囲をビビらすことがあるから、一体何なんだって俺は思う。体力つぎすぎなのか?  そして、あの時の事を嫌でも思い出す。だから俺は疲れてしまうのか。  あの瞬間を思い出すと自分でも思わず自己嫌悪になる。 「なんだよ、またお前は、俺に差別をするなというのか?」  睨み付ける俺の視線を琉は強くは返さない。 「腕は大丈夫か? ごめんな」 「ふん……痛くねぇよ」   ホントは少しだけ痺れてるなんて、カッコ悪くて言えない。 「アヤト、俺は……。性別や種族にこだわるのはもう古い考えだと思っている。それに……人の好き嫌いも種別なんで関係ない。だから……」  何かを言いかけた琉を俺はすぐに制した。 「だから……? だから前に俺にあんなことしたっていうのか?」 「……ごめん……」 「また謝るのか? もう過ぎたことだ。俺は忘れたよ、もう気にしないでいい。オメガもありえないけど、俺は同種のアルファはもっとありえないことだからな」  俺の放り投げたような言葉に琉は口を引き結ぶと、それ以上何も語らなかった。   今でも少しだけ頭を過ぎるけれど、あれはどう考えても琉の気の迷いだと今は思う。  皮肉なことに琉の弾力があり、妙に吸い付くような唇の感覚だけが時折過ぎっては俺の胸の奥がチリチリと痛む。  自分がもっと早くに強く拒絶していればよかったのに、俺は……。  別にアルファ同士で結ばれることもあるのかもしれない。  けれど俺はそれをどこかで拒絶している。

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