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第一章 高貴な遺伝子 九

 時折ある。男性しかいない社会だったり、女性しかいない社会で思春期によくある、ふとした気の迷い、魔が差すって奴だろう。  俺はもう琉を許している。奴もどうかしていただけだ。それにこれ以上ないほど琉は俺に謝ってきた。  それで俺たちの仲は元通りだ。  子供の頃はもっとおしゃべりだった気がする琉が、大人になって更に、あのことがあってから寡黙になったような気がした。  俺はいつものように過ごすことで、琉に変に意識はされたくないと思った。  ある意味ほぼアルファだけがいて、毎日寮と学校の往復の生活をしていれば、誰だってそんな不思議な気の迷いをするものだ。  気にしなければいい話だ。それよりも誰よりもお互いに理解のある大親友だ。その友情は変わることはない。  確かに俺には人種に対する偏見があるかもしれない。  でもそれは親の影響も強いのかもと思うことがある。   俺の両親はとかくオメガを嫌う傾向にあるからだ。 「あいつらは淫乱で不潔だ。相手の意思などどうでもよく腰を振ってくる」  そんな話を夜親がしているところを幾度か聞いてしまったからだろう。  一度父親がオメガの発情期に誘われそうになったこともあったらしい。   一度その毒牙にかかるとアルファはオメガにがんじがらめにされて、つがいになってしまう可能性すらあった。   当然それは無差別にすれば、法律的にも許された行為ではないから、オメガも性欲を抑える薬を飲まなくてはならない義務がある。  なにはともあれ、そういうことがあるために俺たちはオメガと居住地を分けて暮らしている。

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