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第二章 講義 八

 沼間教授……俺がもっとも苦手とする教授だ。あの脂ぎった髪の毛と無駄に肥えた丸い巨体が生理的にどうも受け付けない。  けれど、あれでも俺たちがこれから進む大学で結構な地位にいるらしいから困る。俺たちの高校はこの先進む大学の付属なので、高校の授業にも時折教えに来るのだ。私立だから大学との関係も深い。  俺は沼間のあの少しにやけた薄笑いの表情を思い出し、思わず鳥肌が立った。   「あいつが同じアルファだと思っただけで俺は吐き気がする」 「わからなくもないけどな」  とは言うものの卒業できないのは困るし、そのまま希望する学科へ進学できないのはもっと困る。  おれはしぶしぶベッド脇の引き出しから綺麗に折りたたんでおいた洋服を取り出し、準備をして外に出た。  そして今、講義の部屋の隅に俺たちはいる。アルファ側の一番端でオメガと接触しないように奥の席に。    そのうちに見慣れない生徒が次々と頭を下げ、こちらに入ってきた。  服装は地味で、少しよれたシャツなどを着ている奴を見ると少しイラッとした。恐らくオメガの生徒に違いない。  最後に一人、好青年らしい人物が入ってきたが彼が一番スーツをきちんと着こなして姿勢もよかった。だがさほど背は高くない。こいつはベータなのだろうか?    今日の議題は『人種差別のない平等な世界を目指して』    という、いかにも表向きは交流会的な、オメガを歓迎している風なタイトルだ。  そしてその教壇には特別招待にサウスエリア医大の沼間教授が立っている。  どうやら生徒たちの間を取り持つ調整役としているらしい。  それぞれ自己紹介が始まったが、驚いたことに好青年と思っていた最後の生徒がオメガだと彼の自己紹介で知った。  それぞれがもっともらしい講釈をして、俺はそいつらの歯がいつ浮くかと彼らの口元を見るのに集中してしまった。    それぞれがまるで夢物語みたいな理想論を掲げる中、例の青年が静かに立ち上がる。  しかし、話し始めたとたん急に険しい顔になった。  そして今でも根深くあるオメガ種への人種差別について熱弁を振るい始めたのだ。

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