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第三章 隠れオメガ狩り 一

 なんだか周囲がおかしなことになってきていた。  このサウスエリアにも実はオメガでありながら、アルファの姿で生活しているものがいるという。  今は血液の検査ですぐに自分がどの種の人間なのかわかる。  それぞれ管理ロボットがいはずだし、それらは国から支給されているはずだ。俺と琉は一人一人に専用の医療ロボットがついている。  そこへどんな風にオメガが入り込んでなりすますというのだ。  その日の講義で見せられた暴動の様子を映したノースエリアでの混沌ぶりや、毎日行われている主に学生たちによる集会のことなどで、俺はやっと事態の深刻さを知った。  そしてオメガの侵食を防ぐべく、こちらでも分かったことがあれば情報機関にそのことを伝えなくてはならない。    俺は家に戻ると、エムルが珍しく家にいなかった。  彼のメッセージを伝えるボードには『医療薬を補充するためでかけてきます』とだけ書かれていた。  テーブルには夕食後にこれを飲むようにと指示された薬が置かれている。  指示された陶器のコップの液体がココアの匂いがした。今度はココア味になったのだなと俺は少しほくそ笑んだ。  傍には美味しそうな焼き立てのクッキーが添えてあり、俺はそれを口にして、薬入りのココアを飲もうとした。  その時携帯に電話が入る。琉からだった。

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