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第三章 隠れオメガ狩り 三
「一体、何があったんだ、アヤト」
「俺にもよくわからない、何がなんだか」
「オメガ狩りです……」
足元に転がる男たちを尻目にエムルが呟く。
「オメガ狩り?」
「アヤトさま、もしかしてと思い、フェイクをお出ししておいてよかった。どうか私と遠くへ逃げてください」
俺は改めて先ほどのココアを思い出した。
「ただのココア。これは薬じゃないのか?」
「薬……?」
「ああ、いつも俺が飲んでる奴だ、お前も知ってるだろう?」
琉は俺が血液の病気を持っていることを知っていたので、すぐに状況を理解した。
「事情は後でお話します。ご両親が火星行きの宇宙船の予約をしてあります。もう彼らは先に月に向かっています。一度月に着いてそこで火星の移住権を得ます。火星は地球の法律外の地域です、一旦月へ行き、手続きが完了すれば、もう追ってはこないでしょう」
「ま、待ってくれ、お前が何を言ってるのか俺にはわからない」
俺の問いかけにエルムは耳を傾けることなく、部屋の奥に消えた。倉庫を空ける音が聞こえて、すぐに旅行カバンを1つ抱えて戻ってきた。
「さ、早く」
そう言うと俺の手を引いて部屋の奥へ進もうとする。
「待て、状況を説明しろ、僕もサエカもこのままお前らを行かせるわけにはいかない」
琉は俺の前に立つと困惑気味にエルムに訴えた。
「あなたたちはお帰りください。巻き込みたくはありません」
「巻き込むって何を?」
サエカはエルムの前に立ち、行く手を遮った。
「どんな事情であれ、あなたたちをこのまま行かせるわけにはいかないわ」
サエカのルビーのような瞳がいつになく険しい。
「サエカ、いくらお友達でもあなたの言う事を聞くわけにはいかない」
「何故?」
互いが睨みあうように対峙するのを見て、俺は嫌な予感がした。
彼らは体のコアの中に小型のスモールヌクリアを持っている。それらは常に精密にコントロールされてはいるが、非常事態になった時に戦闘要員として動くこともある。
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