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第三章 隠れオメガ狩り 九
大柄の男と細身の男湯田だ……。
「こちらが調べた、沼間教授に提出した検査結果がすべてだ。そこに事細かに出てきたぞ」
湯田がなぜか嬉しそうに呟く。その隣の大柄の男はネームプレートに久下と書かれてあった。
「面白いなぁ、オメガの分析というのは……お前の好きな食べ物や嫌いなものや好みの香り、どんな男の匂いが好きか、性癖。そんなことまでわかってしまうなんてなぁ……」
にやけた沼間の顔に俺は全身が総毛立った。
嫌な汗がこめかみから流れる。
自分がその場で身ぐるみはがされ、裸にされたような気持になる。
自然と体が震えてきてしまう。
「まぁ、私が前に話した事を今でも覚えているか?」
「……?」
「アルファ同士だったとしても、私が君に興味があったってことだよ。私が生徒に興味を示すということは、お前の力を認めているということだ。そしてお前の魅力もわかっている。なに、何も悲観することなどない。」
そういうと沼間は小さな瓶を取り出し、蓋を開けた。
中からココアのような香りが辺りに振り撒かれた。
俺はその匂いに少しだけ、ほっとしたような気がした。
どこかが心地よいのだ。
いや、心地よいという事実がむしろ軽い衝撃を受ける。
何故大嫌いな奴の部屋が心地の良い香りで満たされなくてはいけないんだ。
「こうして君が嫌なことがあるのなら少しでも解消して、少しでも私と共に研究をしていけるような環境作りができるとわかったからね……楽しみだな」
話の意図がわからないまま、俺は今こいつのことであれやこれや考える余裕がなかった。
「まぁどちらにしても、君が嘘だというのなら、今ここで君の髪の毛をもう一度いただいて再度調べて見てもいいんだよ。Order Police Corpsの方で結果が出ているからもう確実なのだがね。こちらとしても君がいる目の前で再度調べてから君への手続きをし直さなくてはならないしね」
その後俺が廊下に呆然自失なまま出ると、琉が壁にもたれかかって待っていた。
琉の元へ何故か駆け出して行きたくなる。
けれど俺の自尊心がそれをさせなかった。
俺はアルファだ……。誰にも寄りかかりたくはない。
俺は体の震えを彼に悟られないよう歩き出すと、琉は一定の距離を置いて俺の後をついてきた。
こういう時琉は何も言わないし、何もしない。
ただ、黙って俺に寄り添っている。その方が俺も助かる。
今ここで琉に何か言われたら俺は大声を上げて叫んでしまいそうになるからだ。
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