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第四章 発覚と抵抗 一
翌日。朝、空が妙に重く感じた。窓から見える空は曇っていて、いつもなら飛び交うムクドリたちも姿を見せない。
いつもと同じように俺は顔を洗うが、朝食を出してくれるエムルの姿はなかった。
起きた時から体の火照が時々体を襲う、風邪でもひいたか。
もしかして薬を服用していないせいで、持病が発症してしまったのだろうか。
今まで感じたことのない不安が胸に押し寄せる。
濡れた顔を映した鏡を睨みつける。
こんな持病持ちな上に、俺がオメガだって? どんな冗談だ。
沼間は例え俺がオメガだったとしても、自分の研究所に呼び寄せるというようなことを言っていた。
冗談じゃない。何故あいつのところになんていかなければならないのだ。
気分が悪いっ。
昨日とは確実に世界が変わっていた。しかも悪い方向にだ。
これが夢なら冷めて欲しい。
いや、もしかしたら昨日のことは本当に夢だったのかもしれない。
もう一度確認するべきだ。昨日のはただの悪夢であるということの確認だ。
表に出ると琉が待っていた。
彼はいつも冷静だが、俺は琉と性格が正反対な気がしている。
俺はむしゃくしゃしているとついいつもオメガの悪口が出てしまうし、自己中心的なところもある。
自分が持病があるせいもあるかもしれないが、いつも不安が押し寄せると自分の体調を気にしてしまう。
しかし、琉は違う。いつも自分というよりも他人に、常に誰かに気持ちを向けているように思える。
「おはよう、アヤト」
「……」
俺は琉に直接聞くことができないでいた。昨日のあれは夢だよな。
本当は何もなかったんだよなと……。
少しでも言葉を発すると怒りなのか悲しみなのかわからない感情が溢れてきてしまう。それだけ俺が琉に気を許している関係だからなのかもしれないが。
流石にそれはみっともない。でも気持ちが落ち着かないのだ。
なにかをきっかけにして怒りが湧き出たら、それを一体誰に向けたらいいのか、気がどうにかなりそうで怖い。
「アヤト、顔色が悪い……」
「薬を飲んでいない……。エムルがいない……」
「大丈夫か? 無理しないでいいんだぞ」
琉がそっと俺の肩に手を触れようとして、俺は思わず昨日の事を思い出し、体が震えた。そして思わず差し伸べられた手をはらってしまった。
「触るな!」
「……っ」
「……ごめん。なんだかもう俺はわけがわからなくて……もう、とにかく……」
「ああ……」
「琉、お前はどうして……?」
どうしてお前はいつもと変わらないでそこにいてくれるんだ……。
「お前が動揺するのもわかる……。誰だって自分のことがあんな形で暴露されたら、本当なのか嘘なのかわからないわけだし、混乱する」
「……お前、もし俺が、オメガだったら……」
言葉が尻すぼみになり、たまらなくのどが渇く。声したら余計叫び出したい気持ちになった。
俺はぐっと唾を飲み込み口を引き結ぶと上を見た。
冷静にならなくては……今は自分の気持ちを抑えるのに必死だった。
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