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第四章 発覚と抵抗 二
その日の授業は落ち着けず、何も頭に入らなかった。
休み時間にはいつも場を盛り上げてくれていたカミーユもどこか遠慮がちで、俺は彼らに挟まれるように授業を受けていた。
「……アヤト、例えお前がなんであれ、僕らは何も変わることはないからな」
俺を気遣ってのカミーユの言葉であるはずなのに、彼の言葉がどこか俺を憐れんでいるようにすら聞こえてしまうのは、間違いなく俺の劣等感からくるものなのだろう。
それが証拠に俺の中で今にもカミーユに掴みかかりそうな気持ちになった。
感情的になって暴れる姿など誰にも見られたくないと思う気持ちも、周りの者にどこか怯えているのも、俺は今まで自分の血をどれだけ頼りにし、それを武器に自分を大きく見せていたのだろうかと悟る。
教室には今はアルファだけではない、ベータの生徒もいる。
もし自分がオメガだったら、アルファのカミーユに接する時の態度はどこか遠慮がちになるのだろうか。
以前中央都市大学付属高校で見たオメガたちの態度と、今の自分の卑屈な気持ちの何が違うというのだろうか。
自分が如何に彼らの存在を下に見ていたのか、情けなくなるくらい、今更俺は自分を酷い奴だったのではないかと思った。
そういえば、カミーユの恋人はオメガ種だと聞いた。
彼とはどんな風に出会い、どんな風に恋人同士になったのか……。その関係性は……。いや、考えたくないっ。
視線を感じふと前方を見ると、俺を見て話していた奴らがさっと視線を反らせ前に向き直った。
今朝から誰かしらかに常に見られているような気がしている。
自意識過剰だと頭を横に振ったが、今の周りの様子を見て悟ってからは、なんだか神経がピリピリしてきて、俺は手元のモニターに視線を落とした。
きちんと揃えらえれている電子ペン、正確に書いているであろう文字の羅列……。
昨日までの自分が凛として生きていた。その痕跡……。
今はその肝心の俺自身がまるで抜け殻だ。
この先何を信じて、どう自分のアイデンティティを保って生きていくのか。完全に闇の中だ。
いや、闇の中ならいつかは光も差すだろう、けれどそこには空虚。なにもない……。
今まで培われてきた思想や、確固たる自分の中での核みたいなものが根底から崩される。
自分が何者かであるかがわからない……。
今まで持ったこともない不安に俺自身がぐらついている。
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