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第四章 発覚と抵抗 三

 クラスの中にはベータ同士でつるんでいる連中がいた。その中でもリーダー的な存在の織崎克己とはもともと仲がいい方ではなかったが、俺がオメガであるというデマの情報を見てから、彼とその仲間たちとは会話をしていなかった。  講義の時間のすれ違いもあったが、まともに一緒に授業するのは、あの後初めてだった。    午前中の講義が終わると、午後からは美術の時間だった。  美術室にはイーゼルがあり、それぞれのスケッチブックを置き、鉛筆で描く、今でも鉛筆で物を書くという文化は残っている。  電子でなんでも解決する世界で、過去の文化をあえて行う行為は、本来人間には過度な便利さが不必要なのではとも思ったりもする。  前は何をやってもきっちりするべきだと思っていた。  もちろん芸術に関してもしっかりと作品を作ろうという気持ちがあり、俺はいつも完璧を求めた。  けれど、それは今まで核となる部分。自分がアルファ種であるという誇りがそうさせてきたとも言える。  その一番大事な部分が抜け落ちた自分がしっかりやろうとしても、それはむしろ滑稽なんじゃないだろうか。    奥の部屋からガウンを着た男性が現れた。今日のデッサンは人物デッサンと聞いていたので彼はそのモデルなのだろう。  しかし何故だか顔色が悪い。 「今日はモデルの方に来ていただいて、裸のデッサンをしてもらおうと思います。人間の体はポーズによってさまざまな表情を見せます、それらを描写していただけたらと思います」  男性が先生の指示で来ていたガウンを脱ぎ、生まれたばかりの姿になると、台の上に上がった。  みんなは素直に鉛筆を持って、目の前のモデルを描き始めた。  彼は……アルファなんだろうか、ベータなのだろうか。オメガなのだろうか……。  よくよく考えたら見た目では俺たちは何も変わりがない。みんな同じ人間なのだ。  例えオメガだからと言って……。  はぁ、卑屈になるな、アヤト。いつからお前はそんな情けない奴になった。  数分経ってモデルの男の顔色が更に悪くなっていることに気づく、額に玉のような汗をかいていた。  ふと彼のポーズが崩れると、そのまま前のめりに倒れそうになった。咄嗟に一番前にいた琉が立ちあがり、彼を支えた。  壁にもたれていた先生が駆けつけて、「みんな、そのまま自習を……」と告げ、モデルの男に肩を貸しつつ教室から出てしまった。 「自習をって言われてもな」 「誰か他の奴が、モデルになれってことなんじゃないの?」 「お前やれよ」 「嫌だよ」  軽い小競合いが続く中、誰かがふと呟く。 「モデルなら素敵な子がいるじゃないか、ほら最近種族が変化した奴がさ、いや、もともとの種族を偽っていた奴か」  ふとベータ仲間のリーダー的な存在である織崎が呟く。  少し癖のある黒髪を軽くいじりながら意地悪そうにこちらに視線を向けた。  俺は嫌な予感がして顔を上げると、みんなが俺を見ていた。 「……な、何を……」 「ア ヤ ト ち ゃ ん 君がやったらいいよ、裸になってさ」

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