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第四章 発覚と抵抗 五
授業は戻ってきた先生の指示により、人物デッサンから静物画になった。
嫌な空気を作った奴らはしれっと授業の絵を大人しく描いていて、俺だけが気持ちが落ち着かない。
こんな風に毎日俺は織崎だけでなく、俺に対して良くない気持を持った他の連中に茶化され、冷やかされ続けるのだろうかと思うと、ここで授業を受けていく自信がなくなってきた。
彼らから浴びせられる言葉は遠慮がなく、無礼で、人を人とも思わない言い方だ。
逆の立場に立つとこんな風に見え方も空気も変わる。
彼らが俺の事をどう考えていたのが分かった今、彼らの心の闇を見た気がする。その闇は……俺自身が作ってしまった物なのだろうか。
授業が終わり、次々と生徒たちが教室を離れていく。
帰り支度を終えて教室から出たところで、腕時計から連絡が入った。
「おい、羅姫」
今一番見たくない奴の姿が浮き上がるホログラムに現れた。
相手は沼間教授だった。
「お前の親と連絡が取れたぞ。今火星の第一ドームTエリアにいるそうだ」
沼間は俺の背後にいる琉をちらっと見た。
「私の研究所に一人で来い、宝田、お前には関係のない話だ。羅姫のプライベートな話だからな」
「え」
俺はドキリとした。
「しかし……」
「宝田。空気を読め」
沼間は電話先で貧乏ゆすりでもしているのだろうか、明らかに苛立ち、琉を邪魔に感じているようだった。
琉はためらいがちに俺を見たが、彼が引かなければ、俺が親と連絡が取れないと察してくれて、俺にはついてこなかった。俺は渋々沼間教授の部屋に向かった。
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