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第四章 発覚と抵抗 十六

「アヤト、とにかくエムルの行方を探ろう。お前がこのまま意に染まない形で周りから好き勝手にされてしまうのが許せない。しばらく学校へは行かない方がいい。急にまるで下剋上のような乱れと混乱が起きて、今日のようにいいことなどない」 「ああ……何もかもがとても不快だった……とても……」  俺はまだ少し体が震えていた。サエカからの薬だけでは完全に良くはならないようだが、それでもだいぶ落ち着いてきた。  いままで生きてきて、今日ほど屈辱的で悲しい気持ちになったのは初めてだ。  俺たちはとにかく一度寮に戻るとシャワーを浴びて着替えをした。そして、ある程度の荷物をまとめると、学生証や医療証を持ち、外で待っていてくれた琉と共に琉の寮に行くことにした。 「お前がオメガだと知った以上、一人にしておくわけにいかない……」 「……琉」  琉の寮は俺の寮からさほど離れていない。歩いて五分くらいのところだ。 「アヤト、俺も一緒にお前と何故お前がこんな理不尽な目に会わなければならないのか、原因の究明がしたい。それにこうなった以上、俺はお前に俺の事も話すべきだと思った」 「なんだよ……お前の事って……」  琉は少しためらいがちに、サエカの方を見た。サエカはそんな琉を気遣ってか、軽く頷く。 「お前が正直に言ってくれたのだから、俺も言うが、実は俺も毎晩薬を飲んでいる」 「……え?」 「俺はアルファだがお前と真逆で少し強すぎるアルファなんだ。だからそれを抑制する薬を飲んでいる」 「そう……なのか」  琉の顔を見ると奴は少し緊張した面持ちだった。 「さっき凄い勢いだったのもそのせいなのか? まるで人を殺しかねない勢いだったぞ、怖かったくらいだ」 「……すまない……。たぶんそれが自制が効かない俺の欠点だ。嫌になったか?」  俺は首を横に振った。琉がどうであれ、今人間的地位の失墜を強烈に感じている俺の方がずっと世間を騙している感が強い。  琉のそれは俺から比べたら大したことではないと思った。 「琉さまのことに関しては、私が説明させていただきます」  身支度をすっかり整え、旅行鞄を二ケース揃え終わったサエカが俺たちに改めて追加説明をした。 「琉さまの血も特殊なのだそうです。ほとんどの人間ははっきりとアルファ、ベータ、オメガ、と分かれますが、強いアルファの血を持つ方が生まれます。それはあらゆる能力が人間のそれと桁違いに大きすぎて、人間社会に適応するために自らの能力を抑えなくてはならないのです。でなくては彼は何もかもを破壊してしまうただの犯罪者になってしまいます」 「……そうか、お前もお前で大変だったんだ。いつも穏やかそうにしていたのに」 「……俺もどこか特殊なんだと思う」 「お前、いつから自分が特殊なアルファだと気づいたんだ」 「かなり前からだよ……。でも、誰にも口外できなかった。お前にも……」 「……そっか。やっぱり俺はピエロだったんだな」  俺は苦笑いするしかなかった。

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