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第五章 運命に抗いたい俺たち 六
「君はオメガ種だったんだよね?」
「……」
「気を悪くした?」
「……いや。それより、お前話し方変わってないか?」
「さっきはみんなの手前だったし、まだろくに話もしてなかったしさ、でも今は二人きりだし、君と僕はタメだし、同じオメガ同士で敬語ってのも変じゃない?」
あんまりあっさり言うので俺は返す言葉を失った。
それにここ数日間の短い間にあまりにも色々なことがありすぎて、俺も疲れていたのだろう。
明らかに態度を豹変させたフロンに言い返す気持ちも起きない。
俺がオメガであれば、彼からしたら対等な立場で卑屈になる必要もないのだ。
俺は長い間自分がアルファだと思って過ごしてきた。だからオメガのことなんて何もわからない。
「……もっとみじめな思いをしているのかと思ってた」
「えっ?」
「オメガはアルファから見れば最下層の人間だと思っていたから……」
「……いかにもアルファだった奴らしい物言いだね……」
フロンは皮肉っぽく呟いた。
「でもまさかその君が実はオメガでしたって、結構君からしたらシャレにならない事態だろ? ある程度カミーユから事情を聞いてるけどさ、君は薬でアルファにされてたそうじゃないか。まさかそんなことまでしてアルファになりすます奴がいたなんてね。どんだけ俺たちは悲観的に観られてたんだよって話。現実に目の前にしてみてどう?」
「……俺が想像している形とは違ってた」
「そうだろ?」
「お前らは生き生きしていて、なんていうか、今日初めてこの中央都市のノースエリアの住宅地に来たから、ぶっちゃけ俺らとお前らが大して見た目に差はないと感じた」
その言葉に何がおかしいのかフロンが笑い出した。
「そりゃ君自身が俺たちと一緒の立場になったからじゃないのか?」
「ち、違うっ! そうじゃない!」
「まぁ、いっか。確かにね、実際はアルファの奴らが騒ぐほどに僕たちは見た目には全然変わらない。むしろ理性的だよ。今はもう昔から語られるようなことはないし。体格のいいオメガもいる。発情期はコントロールできるようになってるし、ただ……一つだけ挙げるとしたら、センシティブ的な事があるとは言われてるけどね」
「センシティブ的なこと?」
「例えばまだ未だに存在する、僕たちが抗ってもどうにもならない、つがいって奴を知ってるか? もとアルファなら聞いたことくらいあるだろ?」
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