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第五章 運命に抗いたい俺たち 八
「いや、俺はその話の詳細を聞きたい。特に恋愛感情を無視した、つがいという存在は研究対象になる。もともとアルファ、オメガ間について、非人道的なこの現象をなんとかしたい」
琉の勢いにフロンは動揺し、驚いている。
恐らく琉からこんな積極的にフロンに迫ってくるというシチュエーションが今までなかったのだろう。もちろんそれは彼に琉がアプローチをするというものとは違う目的を持ったものなのだが。
「頼む、その研究をしているという人を紹介してくれないか?」
少しためらったフロンだが、琉があまりにも積極的なので、折れたようだ。
「わ、わかりました。琉さんがそこまで言うなら……明日会えるか連絡してみます」
フロンはいかにも馴れ馴れしく琉の腕を取って微笑んだ。
琉はフロンに頷いたが、すぐにこちらを向いた。
「良かった……これで何か解決の糸口が見つかるといいのだが。な、アヤト」
「えっ、あ、あぁ……。いや、しかし……」
つがいなどという嫌な生理現象の真相を探ることに俺は今更ながら少し躊躇してしまっている。
「琉さん、なんだかアヤトさんは興味ないみたいですよ?」
フロンの態度は俺が加わることを拒絶してるようだ。
彼的にはお気に入りの琉と二人きりで行動したかったのだろう。
でも琉は俺の目をまっすぐ見ている。
いつも以上にそれが真剣に感じられて、俺はその視線から目を外すことができなかった。
わかっている。……これは俺にとっても知らないわけにはいかない、行かなくてはならない事の一つだと。
「アヤト、お前がオメガだったことも、そしてオメガに起きる理不尽な生理現象も、今は辛いかもしれないけど、わからないよりは知っておいた方がのちのち役に立つと思うが……」
「わかってる……わかってるけど……」
「……怖いのか?」
俺の気持ちを見透かされたような気がして、俺は一瞬視線を反らした。のどが渇いたのか思わず唾を飲み込む。
怖いだなんて、認めたくない。そんな情けない気持ちを琉に向けたくない。
俺はまだどこかで強気の自分を、ライバルだと思っていた琉の前では強い自分でありたいとどこかで思っていた。
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