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第五章 運命に抗いたい俺たち 九

 琉とは立場も置かれてる状況も違ってしまった。俺の中で焦燥感があるみたいだ。この焦りや恐れの所在が掴み切れなくて、俺は何かにすがりたいのだろうか。  前の俺たちの関係が心地よかったから。絶対的な安心感がどこかにあった。  元いた学校や寮、裕福で気持ちに余裕があった生活……。  今思うとぬるま湯だったのかもしれない。でも俺はあの生活が当たり前だと思っていた。しかし、根底から覆されてしまった……。  状況の変化が俺たちの関係まで変えてしまうような、そんな気がして、俺はそれをどこかで恐れているのかもしれない。   今目の前で腕を組んで歩いている琉は更にフロンに何か尋ねているようだ。  琉が積極的なだけに、二人がとても仲良く見えてしまって。フロンもとても嬉しそうに答えていて。俺は動揺しているのか。  俺の知らない琉が確かにここにいる。    いや、本当は今までは自分の都合のいい所しか見えてなかったのかもしれない。  今目の前にあるのが現実……。  琉や同じアルファの友人たちが当たり前のようにいつも俺の周りにいて。なんてことは幻想だった。  琉は時折中央都市の付属高校や大学に行っていたというから、そこで学校生活とは違うプライベートなカミーユとも会っていただろうし、その彼氏のエルピとも交流があっただろう。  そうすれば当然、フロンとの交流もあったはずだ。  確かに今日初めて会ったという感じではない。  それにここに泊まったのも初めてではないかもしれない。  もしかしたら二人は……。  そこまで考えて俺ははっとして頭を振った。だから何だって言うんだ。  なんでそんなこと俺が気にする必要があるんだ。  彼らがいつ会おうがどんな交流をしていようが俺には関係ない事だ。  例え付き合っていたとしても不思議はない……。  なのに……この胸の痛みがなんなのかわからない。  フロンは早速その彼に連絡を取った様子だった。そして琉の方に笑顔で大丈夫そうだと伝えた。 「それじゃ、明日早速その製薬所に行こう」  一番手前の琉の部屋で俺たちはおやすみの挨拶をして別れた。  琉が部屋に入るまで手を振っていたフロンはすぐに俺に追いついてくる。そして、ベランダにいた時の態度に戻った。 「あのさ、一言だけ先に言ってもいい?」 「……なんだ?」 「僕さ、琉が好きなんだ」  俺はふと足を止めてしまった。何故か背中から汗がじわりと滲む。 「君は、琉のなんなの?」 「……俺は。彼とはただの友達だ」 「そう? 本当に?」 「……本当だよ」  俺の言葉を少し疑うようにフロンは顔を覗き込んでくる。そして「まっ、いっか」と小さく呟く。 「まぁ、その、君。よかったら僕が琉と上手くいくように手伝ってくれない?」  いきなりな提案だ。 「はぁ? そんなのお前らの問題だろ?」 「で、でも君は琉と恋愛感情はないけど友達なんだよね?」  フロンは再び俺に疑うような視線を向ける。 「ん……あぁ、友達だ」 「やった! それなら僕に琉のこともっと教えてよ! その代わりに君が知りたいオメガの情報知りたいだけ教えてあげるし、明日だって製薬所に連れて行ってつがいについてもわかるわけだしさ、協力してよ!」  フロンになんだか乗せられた気分ではあるけれど、俺も自分の事を知りたいことは確かだ。 「あ、ああ……」 「やった! 琉ってさ……すっごく優しいのに男らしくてかっこいいよね。アルファなのに全然偉ぶったところないし、頭だっていいし運動神経なんて抜群。以前さ、うちの廊下に飾ってあった石像が倒れたことがあるんだけど、琉ってばすぐ飛んで来てくれて、僕ら2,3人がかりで起こそうとしたのを片手であっさり起こしちゃったんだよね、涼しい顔してさ……」 「はは……あいつちょっと馬鹿力なところあるからな」 「それ以来僕なんか惚れちゃって。それに背も高くてすっごくイケメンじゃない? どうして彼は今まで誰とも付き合ってなかったの?」 「さぁな……」 「もっと色々聞きたいんだけど、明日もあるし、今度絶対色々教えてよね!」 「あぁ」  フロンの勢いに俺が押され気味になりながら頷くと、上機嫌になったフロンは「それじゃ明日ね!」と笑顔で手を振った。

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