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第五章 運命に抗いたい俺たち 十
「はぁ……」
フロンのテンションの上がり具合と反比例して俺のテンションは下がりっぱなしだ。今俺は心細いからだろうか……。
夜、一人でベッドに入った俺は眠れずに何度も寝返りを打った。
隣の部屋に琉がいる。琉は自分が特殊なアルファだと打ち明けてくれた。
石像を一瞬で持ち上げたか……。石像ってあの廊下にある奴だよな。
もしかして奴も自分が何故特殊なアルファで、抑制剤を飲まなければならなかったのかと悩んでいるのかもしれない……。
俺とは全く真逆の悩み……。
少し苦笑してしまうが、俺も琉と一緒に自分の事を知りたくなってきた。
そしてそれは一人で追及していくのは怖く、琉と共にならできそうな気がした。
別に不安なことを一緒に解決していくのなら、フロンも文句は言わないはずだ。
これは俺らが共通に感じている理不尽さだと思う。
俺程とは思わないが、琉だって普通に生きていきたいはずだ。
何度か寝返りを打ってもまだ眠れなくて、俺は仕方なく上着を羽織ると飲み物でも買いに行こうと、部屋から廊下に出た。
ふと玄関先のソファに腰かけている琉の後姿を見つけてドキリとした。
俺の気配を察したのか琉が振り返る。彼も寝付けなかったのだろうか、俺と同じようにパジャマの上から上着を羽織っている。
「アヤト……」
琉が手元にコップを持っていた。
良く見ると飲み物を配っているメイド型ロボットがこちらをちらっと見ている。
俺にも配りたそうにしていた。
「……」
俺たちはソファに腰かけて少しの間無言だった。
俺は注いでもらったミルクティーを口にしていた。
「疲れたな……」
ふと琉の方から口を開く。俺は黙って頷いた。
「色々なことがありすぎて、頭の中がまとまらない……」
俺はずっと思ってた言葉を素直に吐き出した。
「そうだな……」
疲れたという気分は俺に寄せて来てくれているのか、それとも琉自身もそう感じての同意なのかはわからなかった。
でも黙って二人でここに座っていて、ふと琉の横顔を横目で見た時に、俺はあの時の事を思い出した。
俺が学校の連中に体育館に連れ去られた時に助けてくれた琉が尋常じゃない様子だったことを……。
あんな風に誰かから体を張って守られたのは初めての事だった。
怖かったけれど、あの時からなのか俺の気持ちがどこか落ち着かなくなったのは……。
琉はいつも物静かなタイプで落ち着いているからこそ、余計あの時に見せた激情に俺は驚いた。それが胸のざわめきの原因かもしれない。
俺も変化したが、それに合わせるように琉にも変化がある。
それは俺が今まで気にしていなかったからなのか……。琉が今まで近くにいすぎて気づけなかったからなのか……。
そして彼は特殊なアルファであり、俺も特殊なオメガである。
そう思うと、以前俺に対して接してきたあの態度も……。
俺に思わずキスをしてしまったのも……? 俺のせいなのか?
俺は思わずあの時の事を思い出して、唇に手を当てた。
やはり俺はもっと色々な事を知るべきだ。
「琉、さっき俺に言ってくれたこと……その、俺もオメガの事知るべきだって……」
「ああ……」
「お、俺もそう思う……いつまでも逃げていたらダメだと思ってる」
俺が顔を起こして彼を見ると彼は目を細くして俺を見つめた。
「……怖いのか……?」
少し眉尻が下がった様な気がする。自分の心が見透かされた気がして、俺は視線を反らせようとしたが、咄嗟に琉が俺の頬に手をかけた。
「大丈夫だ。俺がずっとお前の傍にいる。確かに自分の種族は認めなくてはならないと思うけれど、そんなものは単なる血液型と同じだ。俺たちは自由な精神でいるべきだ。この性だからと自分たちの未来を決められたくはない。お前だって、オメガだからこうだって言われたくはないだろう……沼間とのことだって……」
琉の言葉で俺ははっとした。思い出したくもないことだが、つがいというものは明らかに俺の意思に反したものだ。
避けられるものなら避けたい……。
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