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第五章 運命に抗いたい俺たち 十二
不意に瞼に眩しい光を感じた。
トントンとドアをたたく音が聞こえ、俺は自分が柔らかな布団の中にいるのが一瞬現実なのか夢なのか混乱した。
「アヤトさん、朝ご飯ですよ」
執事さんの声が聞こえる。
辺りの光の眩しさに目を細め、改めてあの沼のような世界が夢だったことに気づきホッとする。
朝食はむしろ俺たちがいつも寮で食べてる食事よりもよっぽど豊かなものだった。
俺は昨日の夢を思い出し琉を横目で何気なく見てしまった。彼は落ち着いた様子で朝食を取っている。
昨日の妙な胸の疼きは夜の寂しさに誘われたからなのだろうか……。
俺たちは朝食を終えると、玄関前に集合した。
先に琉とサエカが待っていた。相変わらず待ち合わせの時間よりも早めに来る奴だ。
俺は朝はあまり調子が良くないから、こういうところは琉よりできてないと思う。
「さっきはどうした?」
二人きりで待っている間、不意に琉に囁かれてドキリとする。
「さ、さっきって……?」
「今朝朝食の時間に俺の顔をちらちら見てたじゃないか? なにか話したいことでもあるのか?」
「い、いや、べ、別に……」
「ふぅん……」
俺が琉のことを盗み見ていたことに気づいていたことにドキリとした。
琉は一度も俺の方なんて見なかったはずなのに……。
「俺の方なんて見てないのになんでわかったんだって思っただろ?」
更に追い打ちをかけられるようにそんなことを言われて俺は動揺した。
その様子を見て琉はクスリと微笑む。
「な、なんだよ、何がおかしいんだ」
「相変わらずわかりやすいな、お前」
「はぁ? あのな、俺はこれでもポーカーフェイスで通ってるんだぞ」
……たぶん。
「お前の表情やしぐさなんてすぐにわかるさ、いつも見ていたんだからな」
「え……? な……」
急に距離感を詰めてくる琉に俺は思わず心臓が跳ね上がった。
そ、それはどういう……。
「お待たせ!」
琉に尋ねようとする前に、俺の言葉はフロンの大きな声で遮られた。
リュックを背負ったフロンは息を切らせながら走りこんできた。
そして咄嗟に俺の腕を掴み自分に引き寄せ、俺を軽く睨んだ。
「わかってるよね」
昨日自分が言ったことを確認し、俺を諭しているようだ。
「ああ。お前と琉が上手くいくようにするんだろ……」
俺らのひそひそ話を琉は不思議そうに眺めていたが「行くぞ」と俺らに声を掛けてきた。
その琉の腕を咄嗟に掴んだフロンは上機嫌になり、笑顔で「はーい」と答える。
俺は即座に彼等よりも少し後ろに距離を取った。
「学生証は持ってるね? それじゃ製薬会社に案内するよ!」
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