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第五章 運命に抗いたい俺たち 十三
製薬会社はフロンの家から車で三十分くらいの場所にあった。
俺を助手席に乗せてサエカが運転している。
後ろの席ではフロンが琉と二人で座ることができたことにご機嫌だった。
フロンは俺がいなければもっと楽しいドライブだっただろう。
様々な商業施設や人の往来を感じる道路から、次第に辺りは枯れ木や瓦礫ばかりの殺風景な景色に変わっていく。
見渡す限りの何もない広大な土地の中に、都心の最新ビルのようにそこだけ妙な浮きあがりを見せた違和感のある建物が近づいてきた。
たぶんあれが俺たちがこれから向かう製薬会社なのだろう。
ふとバックミラー越しにフロンと視線が合う。
「この製薬会社はかなり前から設立されたらしいんだ。そして最初は民家ほどの規模だったのが、今はこんなに大きくなった。土地がまだあるから、この先も大きくなり続けるのだろうと思う。もちろん表向きは普通の製薬会社だよ。そのエムルというアンドロイドがそこにいるのかは定かじゃないけどね」
もしエムルのように限られた医療アンドロイドがそこに出入りしているとしたら、もし自分の身をアルファに変えられるほどの薬剤を作れるところだったら。
極秘裏な裏での需要が、取引があるのだろう……。
だが倫理的にどうなのだろうか。こんな風に一人の人間の人生まで変えかねないことをして、いいのだろうか……。
「サエカ、エムルの気配はするか?」
「微量にセンサーに反応があります」
エムルは本気で逃げようと思えば逃げられるはずなのに……。
サエカに自分の気配をどこか残しているような気がしてならない。
それが作為的にも感じる。
エムルはOrder Police Corpsからも逃れなくてはならない。だから、わざと俺と程よい距離を置きつつ、それでいて俺を導いているのかもしれない。
入口のビルはまるで奇抜を売りにした建築家が設計したような、建物の半分がガラス張りになっていて、内部もわざとむきだしのコンクリートを見せる造りになっていた。
フロンの誘導で俺たちは製薬所の人間が出入りしている専用の入り口から入った。
学生証を見せてOKをもらった俺と琉のカードはゲスト用のIDカードだ。
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