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第五章 運命に抗いたい俺たち 十四
「フロンさんこんにちは」
しばらくして少し白髪頭のひげを生やした年配の薬剤師が現れた。
「こんにちは池さん」
池という名の彼は灰色の白衣のようなものを身にまとい、小さめの眼鏡をかけていた。
フロンによると従弟の知り合いの薬剤師らしい。
俺たちは池さんの案内で個室に通された。そこは接客をする部屋らしく、普通の応接間のような部屋だった。
「……みなさんが私たちの製薬を使われていると聞きました」
琉がサエカを促すと、「これです……」とあるシートをサエカは取り出した。
「……これは……」
「これはアヤトさんの家から見つかった2種類の薬です。恐らく彼はいつもこれらを飲まされていたと考えられます。アヤトさんには申し訳ないのですが、お部屋のカーペットから勝手に採取させていただきました」
それに関しては俺も何も言うことはない。
池さんが薬を判別機に入れると、それは間違いなくここで製造されたことのある薬だったそうだ。けれど今はここでは作っていないそうだ。
そしてその結果を見て池は渋い顔をした。
「なんなんです? この薬は……」
「これは……その……!」
言いよどみ、なかなか口を開かない池に俺は少しだけイラついた。
「はっきり教えてくれ、これはなんなんだ!」
「こ、これは一つはかなり強い抑制剤です……。二つ目は血を丸ごと変える薬品だ」
「血を変える……?」
「……ええ、持続時間は一週間、物によっては二週間続くものもあります。アルファ傾向、ベータ傾向、オメガ傾向、と色によって違いはありますが」
「これは違法じゃないのか?」
「違法です……。だからこの会社でも何年か前から製造を止めています」
「……そうか。俺は持病とか言われて、その血を変える薬をもらっていたんだ。どこのだれかわからないけど、どこかでそれが今も作られていて俺はそれをエムルからもらっていたんだ」
「でも変な話だよね、そんな医療ロボットを使ってまで君をオメガであることから隠す意味がわからないよ」
フロンが不服そうに顎に手を乗せ考えを巡らせていた。
「アヤトが本当のアルファだったら良かったの」
妙に優し気に、けれどそれは確実にフロン的に都合のよいことで、フロンの望んでいることが、なんとなくわからないでもなかった。
フロンからしたら俺がアルファである方が嬉しいのかもしれない。
ライバルは一人でもいなくなったほうがいいはずだ。
「俺だって、もともとアルファであればどれだけ良かったか……」
思わず心の声が口から洩れてしまった。
フロンは俺の呟きに首を縦に振る。
「そうだよ、君はアルファであるべきだったんだ」
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