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第五章 運命に抗いたい俺たち 十五

「……ううむ……持病と言って血を変える薬を飲ませるというのも、あながちないわけではありません。まぁ、稀な例ではありますが」  池が意外なことを言う。 「例えばオメガの場合、強すぎる性欲が抑えられない場合は、抑制剤だけでなく血そのものを変えることで調整する手段があるにはありますが。それくらいしないと抑えが効かないくらいの発情期での性欲の強さなのかもしれません」 「うわ、そんな風に言うとまるでアヤトがものすごい性欲の塊で抑えられないから、血まで無理矢理変えないとどうしようもなかったみたいじゃん……」  フロンの言葉に池はあっさりと頷く。   「その通りです。今では稀なことですが、オメガの中でも非常に性欲が強く制御できない人間がいます。それはもう生まれた時の遺伝子でわかるのですが、その場合もう生まれて授乳期間が終わったらすぐに投薬をするものもいたそうです」  そう言えば、俺は物心ついた時からもうエムルが当たり前のようにいて、自分が持病があって、夜寝る前には必ずおやつのように薬を飲まされていたな……。  子供の頃はそれでもその薬が美味しかったから、自分がラッキーだと思ったくらいだ。  そう思うと自分の無邪気な心の時に戻りたいような……一生わからないままでいたかったような……。 「聞いたことがあります。そういう生まれつき強い性欲を持つオメガは理性をなくさないように幼いころから投薬をするということを……そして抑制薬を飲むだけでは足らず、血の交換までするようなものはアルファとつがいになる可能性が高いと聞きました」 「……そんな……」 「投薬をしないでいたらどんなことになるの?」  フロンの問いに研究員の池が続ける。 「投薬しないなんてとんでもない。しなかったら、あちこちに発情して目も当てられない、自分を制御できない人間になってしまう。確かにオメガはある意味過去の人間たちにとってはなくてはならない存在だったかもしれない。人類が絶滅から逃れるための進化だったのだろうと思う。だが、秩序を取り戻しつつある現在では、それはまともに生活できないどころか、社会的にも倫理的にも問題になる。薬を飲まなくては逮捕される可能性もある。アルファとの相性もあるが、こういう稀なオメガが問題なのは、発情期になった時の制御です」 「怖いな……まるでボクたちが発情期になったらあちこち街の男達を漁りにいくみたいじゃないか」 「市販の抑制薬が効く程度の発情なら問題はないです。最近はそういう人がほとんどです。そこまで相手を漁らなければならないほど、人類が絶滅の危機の状態ではなくなった」 「……じゃアヤトの状態は稀なんだね、それにつがいというのも」 「ええ、ある意味希少です。種族として枝分かれした原始的時期の人種だったのでしょう。まだ地中の生活をしていた頃の名残なのですよ、強力なオメガの発情期とアルファとのつがいというものは。ある意味種族を残せる相性の良い相手と永遠に子孫を残すための行為を繰り返すわけですから、それだけ人類の生き残りをかけた壮絶なものだったのでしょう」

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