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第五章 運命に抗いたい俺たち 十六
色々なことがわかると俺は増々凹んだ。要するに俺はどうしようもなく、性欲の強い、人類が絶滅しないように生み出された、子供を産むための人間だったってことだ。進化した人間ではなく、むしろ化石の部類だ。
しかもその為に抑制薬だけでなく、自らの血を変えてまで押さえつけなきゃならないほどのものだったんだ……。
しかもアルファの相手を捕まえてつがいになり、ずっと子供を産み続けるっていうのか……。
なんだか盛る自分を想像するだけで軽いめまいと吐き気がする。
俺の見境なく理性もなにもかも吹っ飛んだ状態なんて、誰も近づかないだろう、さらに気分が悪くなった。
「そんなもの……俺が一番望んでないものだ……野蛮で……醜い……」
言葉に発している間にもさらに気持ち悪さと意識が遠のきそうになった。
つがいなんて一番望んでいない。運命の赤い糸みたいなロマンチックさの欠片もない。
なんか性欲の塊のような、みだらな下品な人間のようにも思える。
頭にずんと塊が落ちてきたようなショックで、俺は本当に地に落ちたと心から思った。
オメガのよりにもよって最下層の性欲狂いの部類だったとは……。
そしてつがいになる相手は自分が心から好きな相手ではなく、性欲に繁殖に適した相手だというのだから目もあてられない。
製薬所にはエムルの姿はなかった。池にエムルの事を話しても彼は知らないと言う。サエカがしきりに彼の気配を探ったり、アクセスを試みたが、彼から何も返事はなかった。
「結局エムルはどこで薬を取引していたのだろうか……」
「フロン、残念だがここにはエムルはいなかった」
「……そうだね……」
「けれど、アヤトが飲んでいた薬について色々なことがわかっただけでも来た甲斐はあった」
「ほんとに? ボク役に立ったんだね」
「ああ、もちろんだ」
琉の言葉でフロンはぱっと笑顔になり、大袈裟なくらい喜んで彼の腕に飛びついた。
琉は少し驚いた顔をしている。俺はその様子を妙な胸のざわめきと同時に見て見ぬふりをした。
それよりも、俺はまた自分の体が熱くなっているのを感じる。
ふと額に触れると汗がじんわりとしていた。
この製薬所が暑いというわけではない。それが証拠に誰も汗をかいていなかった。
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