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第五章 運命に抗いたい俺たち 十七

「アヤト?」  俺の変化に最初に気づいたのは琉だった。 「なんでもない……少し疲れたみたいだ」 「まってくれ」  俺の様子を見て池が近づいて体を診ると言い出した。  俺は血圧や、数百本のミクロの針のようなスタンプから血液の状態を診られた。 「やはり発情期が近いのかもしれません……」 「そんな……俺、どうなっちゃうんだ……」  持っているリュックからタオルを取り出して幾度が繰り返し拭いているが、汗が止まらない。  ふと後ろにいた琉と視線が合った。  彼はとても心配そうな顔でこちらを見ている。    ここまで体が熱く苦しくなったことなんていままでない 「今日の夜まで待てますか? 今まで飲んでる薬だけだと弱いのかもしれないし、もう少し強いのを処方します。できたらそれらをサエカさんに渡します。ただ、これはあくまでも仮のものだから、段々効かなくなる可能性もあるからね」 「彼はどうしたら良くなるんですか?」 「うん……できたら早くつがいを見つけるしかないと思う。もう君は子供が産めるだけの大人だ。オメガの強い発情を支えられるのはやはりつがいとなるアルファだからね」  ……そんな。俺の脳裏に沼間の顔が過り、身震いがする。  池は何か困ったことがあったらいつでも連絡してくれ。と言ってくれたが、結局根本的な解決がつがいを見つけることだなんて、残酷だと思った。  俺はそれからずっと車の中で窓際に体をもたれながら、伏せっていた。  気持ちの問題なのか、それとも体の問題なのか、俺は屋敷に戻るとそのままベッドから起き上がれなくなった。  サエカに以前の抑制薬をもらって飲んだが、それも焼き石に水だったかもしれない。  わけもわからず涙が出てくる。こんな姿誰にも見られたくない。  明らかに自分の体に変化が起きている。体だけならいいが、気持ちまでおかしくなってきている。  その時コンコンと部屋のドアを叩く音が聞こえ、俺は身を固くした。  誰かが部屋に入ってきたような気がして、俺は咄嗟に目を閉じた。 「アヤト……」  琉だ。  彼は俺が寝ているということを知ると、そっと俺の額に手を当てる。  その手の大きさや自分の熱でむしろ彼の手の方が冷たいと感じると俺はなんだかそれが懐かしい気もして、泣きそうになった。  不安で仕方ない気持ちの中、誰かにすがりたくなりたく一方の俺の気持ちに、いつもこうして心の隙間にすっと入り込んで来てくれる。  気持ちが流されそうになる、琉に寄りかかりたくなる。 「わかってるよね」  フロンが俺を睨みつける顔が浮かんだ……。

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