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第六章 抗えない苦しみと発情期 二
もう駄目だ。こんなバカなこと……。どうかしている。
これが俺の本性なのか……。
どんなに苦しくてでもそれから目を反らすことができないくらい、今目の前の琉と交わることばかり俺は考えてしまっている。
こんな姿、琉から嫌われる。嫌われたら悲しい……辛い……。
ふと部屋の窓ガラスに自分の姿が写った。
顔が火照っていて、欲しがって足掻いている自分の姿に俺は思わず涙が出た。
涙が後から後から溢れてそれでも欲情はとまらない。
今すぐにでも琉にどうにかして欲しい。
「アヤト、苦しいのか……?」
「苦しいっ……助けて……」
みっともなくすがってるに違いないのに、俺の言葉に琉はぎゅっと俺を抱きしめた。
彼の温もりに感じたことのない脳天に突き抜ける気持ちよさがどんどん溢れてきて、ただ、抱きしめられてるだけなのに、俺は軽く吐息混じりの声を上げてしまった。
「俺はお前が苦しんでいるなら解放したい……」
「苦しい……苦しい……」
琉は俺を抱きしめる腕の力を強めた。
琉は俺が放出したフェロモンにでもやられたのだろうか。
彼もどこか顔を火照らせて俺をいつも以上に熱く見ていた。
けれど彼は唇を噛みしめ、必死に何かを堪えているようだ。
「けれど……それは本来お前が望んでいないことだ。そうだろう? 今たぶん、お前は発情期に入った。抑える薬がないからそんな状態になっている。でも発情期のまま好きかどうかわからない相手と交えることは、何よりもお前が嫌だったはずだ」
「ううん、そんなものどうでもいいんだ。もうどうでもいい、誰でもいい、苦しい誰かに抱かれたい。誰かと交わりたい、どんな人でもいいっ」
「馬鹿っ、違うっ、お前はそんな人間じゃない。今は発情期にお前が侵されてるだけだ」
「あぁあああああああ!!!!!」
俺は訳が分からなくなって自分では抑えようもない欲情に気がおかしくなりそうになった。
そんな俺を琉はぎゅっとただ抱きしめる。
「待ってろ、もうすぐ、サエカが戻って来る」
「ダメ……もう苦しくて、窓から飛び降りたいっ」
「馬鹿ッ!」
そうだ。この苦しみから逃れられるなら、琉から拒絶されるなら俺は俺の存在を消してしまえばいい!
「お前を巻き込むくらいなら、お、俺はっ……」
琉の腕からすり抜けようともがく、汗まみれの体でベッドから降りようとする俺を琉は引き寄せた。
「くそっ!」
引き寄せられたまま俺は琉に抱きしめられ、キスをされた。
それだけでまるで雷が落ちたように俺の体に快楽の電流が走って来る。こんな気持ちは今まで感じたことがないほどだった。
まるで水に溺れるように俺は琉の体の中で暴れたが、琉の方が力が強いのか抑え込まれたまま押し倒され、そのままずっとキスされた。
それだけで俺はもう俺は昇天しそうになる。
生温かな琉の舌が俺の唇に忍び込んだ瞬間、俺は意識が真っ白になっていくのが自分でもわかった。
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