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最終章 もう抗わない 幸せなつがい 二
「俺たちはその……テレパシーの赤い糸で結ばれていたんだな」
窓の星屑を見つめながらふいに口にしてしまった心の言葉にちょっと気障すぎたかなと焦った。
自分でもなんてこと言ったのだと気恥ずかしくなる。
思わず体が熱くなって、ポケットの中にあるハンカチで額の汗を拭きとった。
「はは、俺何言ってるんだろうな」
「そうだよ」
顔をあげてすぐに俺のすぐ傍らに琉が真顔で立ってることに気づいた。
もう自分の意思がはっきりしているのに拒むのはおかしいと思いながらも、どこかくすぐったいような照れ臭いような気持ちがあって、俺は思わず俯いた。
人間としての琉とこうして肌が触れ合うことにはまだ慣れていない。
今思うと俺は獣が好きなのだろうかと思うほど、獣化したミュータントの琉とは臆することなく触れ合っていたような気がする。
いや、そんなことはない。どちらの琉も好きなはずだ。
背中から琉にぎゅっと抱きしめられた。
その拍子に体がかぁっと熱くなる。
そう言えばあれから全く薬を飲んでいないのに体が熱くなるのが治まったり、またこうして熱くなったりを繰り返している。
「まさか……俺っ、発情……?」
「そう言えばサエカたち、俺たちがつがいと分かった途端凄い勢いで情報を調べてインプットしたみたいだよ」
「そ、そうなのかっ? でも俺っ……発情したからって、それで琉と変な事になるのは辛いな……やっぱりそのっ、本能で結ばれるって……」
「大丈夫だよ。僕らは互いに通じ合ったんだ。あの時から互いが無意識につがいであることを自覚し始めてる」
「だからお前が思うような野蛮な、見境ないことにはならない。互いが安心して安定した状態なんだそうだ」
「……そうなのか……俺達安定してるのか」
素直すぎた俺の呟きに琉がくすっと笑った。
「なんかさ……あんまり色々なことがありすぎて、俺……おかしくなってるかな?」
「そんなことない。ただ、アヤトお前は以前より柔らかくなった気がする」
「……うん……。そりゃ、あれだけ立て続けに色々あると、ちょっとやそっとのことで驚いてたら身がもたないし」
「でも、ただ一つだけ変わらないことがある」
「ん……?」
「俺たちは今までも一緒だったけれど、これからもずっと一緒だ」
「……ああ!」
琉の囁きに俺は心から安堵した。
離れた時の奈落の底に落とされたような不安はもうない。
考えてみたら子供の頃から一緒だった。
もしかしたら、琉だけでなく俺も、もし琉と離れたら姿形は変わることはなくても、不安でおかしくなってしまったかもしれない。琉だけが俺を探していたわけじゃないのかもしれない、俺も彼に見つかるように何か発していたのかもしれない。
「アヤト、好きだ」
ぎゅっと抱きしめられて、俺は少しだけ怖くなってしまった。
だって、俺はオメガだから要するに……。俺がこれから琉に抱かれるってことだから……。
一生懸命頭の中で処理しようとして焦ってしまう。
「アヤト……俺はお前がずっとずっと昔から好きだった……だからもう待てないんだ……」
その言葉の意味はわかる。
「ちょっと、ま、待ってくれ!」
俺は抱きしめられつつも部屋の周りを見渡した。
「あのっ、俺……これから抱かれるんだよな? だ、だからっそのっ」
「ん?」
「部屋をそのっ、少しで暗くしてくれないか……」
多分顔が蒸気して真っ赤になっていたと思う。
先ほどから顔が熱い。
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