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第七章 抗えないオメガの運命と…… 七
「もう話は済んだか?」
沼間の元へ歩み寄ろうとする琉の前にサエカが遮る。
「どけ、サエカ……。俺の大事な物に手を出した。そいつの息の根を止める」
「いけません!」
「ひぃいぃ!」
沼間は情けない声をだして腰を抜かしながら後ずさる。
「琉、待ってください、確かにこの人のやったことは到底許せることではありません。けれど、これ以上はいけません」
「煩い……どかないと、お前を壊すぞ」
「ええ、構いません、私はどうなっても!」
俺は胸が押しつぶされそうになった。
周りの人は彼が怖くて震えているのかもしれないが、俺はそうじゃない。
琉が俺のためにこんな風になって……。
そう思うと胸が苦しくて熱くて、わけがわからない感情になった。
「琉……もうやめてくれ!」
琉がサエカに飛びかかろうとする前に、俺は琉の背中に向かって叫んでいた。
ふと琉が動きを止めゆっくりと顔をこちらに向けた。
「……アヤト」
「俺は、もう大丈夫だから、だから琉……もういいんだ……だからもう止めてくれ!」
俺は琉の傍にゆっくりと近づくとそのまま背中に抱きついた。
力で彼を止めれられるわけがない。
けれど、この激昂が、恐らくいつも俺のせいなのだと思うと、いてもたってもいられない。
あんないつも穏やかで、俺を見守るようにしていつでも自分の助けになってくれた、琉が……。
人々の平等や平和を望んでいる琉が……。
俺の中でその時の穏やかな琉の笑顔が蘇る度に、胸がズキンズキンと痛くなる。
もう止めて欲しかった。
彼は憑き物が落ちたように、ふっといつもの優し気な表情に変わり、俺を見つめた。
俺は少しだけ姿を変えてしまったけれど、自分を取り戻してくれた琉が何よりも嬉しくて、彼を抱きしめた。
琉の汗の匂い……こんなだったかな? 心地いい……。
俺は彼に回した手をもう離したくなくて……。
「琉……会いたかった……! 琉!」
「アヤト……俺は……」
「琉、お前は……どうしていつも俺を助けてくれるんだ?」
「……それは……どうして……なのだろう……。ただ、時々こんな風になる。お前に危害を与えるものを許せなくて、お前を取られたくなくて……俺の血が……そうさせる」
「琉の血が……?」
「俺はお前が傍にいてくれると安心する……小さい頃からそうだった……。俺はお前がアルファだろうがオメガだろうが……関係ない。ただ、お前が大事で傍にいたかった……羅姫アヤトが誰よりも大事だった」
いつもよりもボロボロになっている琉の真っすぐな視線を見ていたら、俺は目の前がぼやけて来た。
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