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ヘンナヤツ(5)※
「よし」
コウヅキは満足気に頷いて、俺に唇を寄せてきた。
「だからってその流れは違うだろお!!」
「うるせぇな。少し黙ってろ」
「何なんだよ!言えだの叫べだの言っておいて今度は黙れかよ!」
「どーせストレスたまってんだろ。すっきりさせてやるっつってんだよ。あとお前自分の状況わかってんの?そいつどうにかしなくていいわけ?」
そいつってなんだよ、と聞くよりも先にコウヅキの目線の先にあるものに気が付いて、血の気が引いた。
勃ってる。俺のオレが、勃ってる。絶望しているところに、コウヅキは畳み掛けるようにして俺の耳元で一言を放った。
「きもちかった?」
かあっと顔が熱くなった。咄嗟にかぶりを振って否定する。
「ち、違っ....」
「違わないだろ」
否定するにはあまりにも説得力が無さすぎる。俺は何も言い返せないまま、無言でかぶりを振った。そんな俺の態度に、コウヅキはあからさまに大きく溜息をついた。
「お前ほんっと可愛くねえな。そんなだから女に逃げられんだよ」
「うるせぇ大きなお世話だ!!」
俺が叫ぶと、コウヅキは身を引いて不愉快そうに眉間に皺を寄せてみせた。
「耳元で叫ぶな」
「お前が余計なこと言うから!」
「あのさあ。お前頭ん中でごちゃごちゃ考えすぎ。きもちかったんならきもちかったでよくない?それとも痛いのが好きなわけ?」
「違う!」
「そ。だったら問題ねぇな。俺も気持ちいい方がいい」
「なっ.....」
そんな事を恥ずかしげもなく言い放つコウヅキのどストレートな物言いに目眩がする。噛み合わない俺のテンポと、こいつのテンポ。耳障りな不協和音。そのはずなのに、独走するこいつに引っ張られて、無理にでも歩調を合わせようとする。合わせてみたいと思ってしまう。綺麗な和音を奏でようとする。聴いてみたいと思ってしまう。
「ちょ、...ん、やめ、」
「あ。耳気持ちいい?」
「違っ...きもち、くな...ちがぅ、」
違うと言っておきながら、耳朶を甘噛みされる度に、ぞく、と気持ちのいい電流が弱々しく身体を巡っていく。角度を変えながら、痛感と快感のギリギリのラインを狙ったような、絶妙な力加減で歯をあてがわれる。
「んっ...ぅ、」
思わず喉から声を漏らすと、くすりと、揶揄するように笑われた。
「なあ、本当は?」
低く心地いい声が、耳の中に響く。腰周りが熱い。
「なあ、どうなの、キリタニ」
「っ....うる、せぇ、」
「キリタニ」
「も、やめ...っ」
「キリタニってば」
「っ...だ、からっ、」
「ほら、教えて」
ついさっきまでの口調が嘘のように、今は何処までも甘くて柔らかい。知らない間に俺はコウヅキの背に腕を回していて、傍から見たら俺の方からしがみついているような格好になっている。
「俺は、キリタニが気持ちいいと嬉しい」
「はぁ...っ、んな、はずかしいこと...っ」
「何も恥ずかしくねーだろ。な、もっかい聞くから。ちゃんと答えろよ」
もう、頭ん中トロトロで、俺の脳味噌はバターにでもなったみたいだ。返事する代わりに、ぎゅ、とシワができるくらい、コウヅキのシャツを掴んだ。
「キリタニ。きもちいい?」
「っ.......、きもち、いい」
「そりゃあよかった」
心底そう思ってる風に、コウヅキは呟いた。
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