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相性(2)

香月との相性はいい方なのだと思う。 身体の関係の話じゃない、人付き合いとしてだ。 初対面にもかかわらすズケズケと無遠慮に腹ん中まで入り込まれ散々説教食らっても、嫌な気はしなかった。裏表がないからだ。香月の放つ言葉一つひとつが、相手の心に届けるためのものだと分かるからだ。手前の感情任せでガミガミ怒鳴り散らすような輩とは違った。 香月のような人種とつるむのは、すごく楽だ。 「なあ、立ち位置変わってくんない?」 「は?」 香月のいう意味が全く分からなくて、心からのは?が出た。 「右側立つの、落ち着かないんだよな」 「なんだそれ。別にいいけど」 香月は一度歩みを遅めると、俺の左側に立ち直した。 聞くと、香月は左利きらしい。大抵の人は右利きだから、自分が誰かの右側にいると手がぶつかったり何だりと、気も遣って何かと不便なのだそうだ。 お目当ての焼き鳥屋に着いてみると、どうやら香月も来たことのある店だったらしい。それでもいいかと尋ねると、むしろここがいい、と自ら暖簾をくぐった。 食の相性もよさそうだ。 この間の居酒屋も、何度か訪れたことがあるのだという。酒が強いのもあの一晩でよくわかった。俺も酒を嗜むが、香月は更に上を行く酒呑みだ。 香月と過ごす時間は、旧友と久方ぶりに会った時のような感覚と少し似ていた。これでまだ若干2回の付き合いとは到底思えない。それくらい話は盛り上がった。 焼き鳥屋では、色んなことを話した。くだらない話も、真面目な話も、とにかく色々話した。 魚より肉が好き。 ビールよりハイボールが好き。 尻より乳が好き。 ロングヘアよりショートヘアが好き。 猫より犬が好き。 邦楽より洋楽が好き。 人を知る上で、共感できるかできないかに重きを置くのは違うと思っている。 俺が大事にしているのは、理解と、共有だ。 その好き嫌い一つひとつが、その人の人となりを形成する一部となっているのだ。共感できないと突っ撥ねるのは、そいつを否定しているように感じてならない。 香月は、俺という人間について知ろうとしてくれた。会話に於けるスタンスは、恐らく俺と似ている。それが、居心地の良さに繋がっているのだと思う。

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