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相性(4)※

ホテルのエレベーターに乗り込むなり、香月はまどろっこしいキスをしてきた。太腿を愛撫され続けて、燻っていた身体が火照るのに時間はかからなかった。 「っ、ん...ふ、」 「はぁ...。桐谷、太腿弱いんだな」 「んっ...あんな、触り方、するから」 「ああ、俺のせい?」 俺が頷くと、香月は俺の両頬に手をあてがって顔を寄せてきた。キスされるかと思って目を瞑ったが、一向にされる気配はない。再び目を開けると、目の前に、優しい目をした香月がいた。心臓が大きく、跳ね上がった。 「嫌だったか?」 その声音も、優しかった。 嫌じゃなかったよ。 じっと香月の目を見つめ返したまま、俺は小さく首を横に振った。香月は満足気に微笑むと、褒美とばかりに唇を重ねてきた。 ゆっくり舌が入り込んでくる。 すごく熱くて、絡めると、その熱いのが、とても気持ちよかった。 今夜取った部屋は、6階の605号室。キスされながら、なだれ込むように部屋に入って、2人してベッドに身を沈めた。 香月は俺の両脚の間に右脚を割り入れると、その膝先を、わざと股間に押し付けてきた。そこは既に熱を帯びていた。 「勃ってるな」 「っ...言うな、」 「興奮したか?ん?」 「うるせぇ...っ」 顔を背けたのがまずかった。香月は身を寄せて、俺の耳朶にかぶりついてきた。 あの媚薬のような甘い香りを、この間以上にプンプン漂わせていた。そういう類の香水かなにかを纏っているんじゃないかと疑ってしまうくらい、今日は濃かった。 「可愛かったよ、お前。脚ひくつかせてさ...必死に声我慢して」 心地のいい重低音が、鼓膜を震わせる。 落ち着いていて、甘くて、少し危なっかしさを帯びた囁き声が、耳の中に落ちてくる。そんな声で自分の情けない姿を再現され、あの情景が鮮明に目の裏に描かれてしまう。それを振り払おうと、固く目を閉じてかぶりを振る。 「な、いつからこんな硬くしてた?まさかキスされてからだなんて言わねえよな?」 「っ....」 何も答えなかった。無駄な抵抗であるのは分かっていながら、そうすることしかできずにいた。 「きーりーたーに?」 「....の、...き、から、」 「あー、聞こえねえなあ。もっかい」 「っ...タ...クシー、の、...とき、から」 「へえ。タクシーの時から勃ってたんだ」 オウム返しされると、自分の発した言葉の恥ずかしさに頭が沸いてしまいそうだった。 あまりの恥ずかしさに顔を隠そうと手を翳したのに、易々と手首を掴まれて頭上で組み敷かれた。 「人がいんのに感じてたんだ。太腿触られただけで」 「おまっ、言い方っ、」 「あのなぁ桐谷。俺もうわかったんだわ」 「何がっ」 「案外好きだもんな?こういうの」 「だから何がだよ!!」 「恥ずかしーこと言われんの、好きだろ?」 「ばっ...好きじゃねえ!ふざけんな!」 「ふざけてねーよ」 そう言うと、香月は俺の胸元に手を置いた。突然の動きに驚いて、ひっ、なんて変な声が出た。 「ほら...ここ」 ここ、と手の平を宛てがわれているは、左胸の、丁度心臓のある場所だ。 「バクバクいってんだぜ、ここ。お前知ってた?もううるせぇのなんの」 そんなの...知るわけねぇだろ。知りたくもない。 「おい...っ、こう、づき、やめっ....」 香月が組み敷いていた俺の手首を再び持って、俺の左胸に押し付けた。

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