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涙(1)
仕事帰りに落ち合って飲みに行くのはもちろん、休みの日に出かけたり、互いの家に行き来することも増えた。会えれば週に1回、多い時は2.3回、まばらではあったが、定期的に会っていた。
俺達は所謂、友人になった。
ただ一つだけ普通の友人と違うのは、その友人関係の垣根を超える瞬間が、俺達にはあるということだ。
俺達は友人であり、そしてセックスフレンドでもあった。
香月と会う時は、大抵セックスをした。ホテルに行くこともあれば、家のこともあるし、車内でしたりもした。その時間は確かに満たされていて、刺激的で、安らげるものでもあった。
だが、5年もの月日を過ごした女との時間とを比べると、俺たちの過ごした日々は、あまりにも浅すぎる。
彼女の名前は、保坂都(ほさか みやこ)。
当時半同棲の生活を送っていた俺の部屋には、都の私物が置かれていた。都は出ていく日、自身の私物を何一つ残すことなく、全て持ち出した。その徹底ぶりに、俺は感心さえした。
だが一つだけ残していったものがあった。俺が彼女に贈った指輪だった。
婚約指輪でも、何かの記念の指輪でもない。ただなんとなく都のために贈った指輪だったが、都はいつも肌身離さずに身につけてくれていた、そんな指輪だった。
都に手渡され、都の手から指輪が離れた瞬間、一度に現実を突きつけられた。これで本当に終わるんだな、と。右手に乗った小さな指輪が、ひどく冷たく感じたを鮮明に覚えている。
都が立ち去った後独り部屋に戻り、随分殺風景となった部屋を、黙って眺めていた。
不思議と、冷静だったことに驚いた。涙のひとつも溢れてこなかった。だが困ったことに、家に帰りたくなくなったのは、その日からだった。
そして、香月と出会ったのも丁度その時期だった。
香月が初めて俺の家に訪れたのは、それからひと月ほどたった頃だったと思う。
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